日本人設計者が中国メーカーと一緒にものづくりをすると、不良品発生などのトラブルが起きてしまうことがあります。しかし、その本当の原因は中国に無理解な日本人設計者にあるかもしれません。この連載では、駐在の4年半を含めた7年間、中国でのものづくりに関わった私が失敗経験を紹介しつつ、その理由を分かりやすく解き明かします。

 前回(第8回)は、中国における製造現場の実情をお伝えしました。製造現場での問題点に気付いた私たちはそれを指摘した後、その原因を聞き出したり改善をお願いしたりします。今回はそのような状況において中国人へアプローチする際に注意すべき点をお伝えします。

勝手に反故(ほご)にされた社長との約束

 プロジェクターに使われるアルミダイカスト製の鏡筒の製造を依頼した鋳造メーカーでの体験を紹介します。量産開始を約1カ月後に控えた頃、私はこの鋳造メーカーを訪問しました。設計的な問題があり、この部品を設計変更することになったからです。大幅に形状が変わるような変更ではなく、軽微な変更です。私としては量産開始に影響を与えるような日程変更をしなくても何とかなると考えていました。

 ところが、この設計変更に対応するためには日程が3日間遅れる、と鋳造メーカーから言われてしまったのです。この部品は鋳造した後に切削加工し、アルマイト処理するという工程になっています。それらの段取りの問題から、今回のような簡単な変更でも、日程を3日間は遅らせる必要があるというのです。

 製品の量産開始の日程を遅らせるわけにはいきません。私は鋳造メーカーの営業技術の担当者に会い、日程の遅れがないように段取りを組む方法はないかと相談しました。しかし、営業技術の担当者は「どうしても日程を3日間は遅らせる必要がある」との回答を繰り返すばかりです。夜も8時を過ぎ、営業技術の担当者は帰宅してしまい、私1人で会議室にこもり途方にくれていました。製品の量産開始の日程を遅らせる事態だけは、どうしても避けなければならなかったからです。

 そのとき突然、この鋳造メーカーの社長が会議室に入ってきました。私は設計変更の内容と経緯、日程を遅らせたくないという事情を説明しました。すると、社長はすぐ自分の携帯電話を手に取り、既に帰宅していた営業技術の担当者に電話をかけたのです。

 社長は10分ほど営業技術の担当者と話をしてから電話を切り、私に向かって「問題ありません。日程は遅らせないで大丈夫です」と言ってくれました(図1)。会話の内容は聞き取れませんでしたが、営業技術の担当者との話の中で、段取りを調整できたのだと私は理解しました。社長は、「どうだ!」と言わんばかりに私と握手をして会議室を出て行き、私は安心して帰宅できたのです。

図1 希望的観測に基づいた断言
納期について社長が約束してくれたものの、実際には無理だった。(イラスト:PIXTA)
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 ところが、それから2週間ほど経って私がこの鋳造メーカーを再度訪問すると、驚くべき事態になっていました。まずは営業技術の担当者と会って日程を確認したところ、「日程は3日間遅れたままで早くはできない」と言い出したのです。

 私は、「社長があなたと電話で相談して、『日程は遅らせないで大丈夫』と言っていました」と電話の話を持ち出しました。しかし、「あのときの電話では日程を3日間遅らせなくても大丈夫だと判断しましたが、今はやはり変更する必要があると判断します」と言ってきたのです。

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