製造業における金属3Dプリンター・金属付加製造(AM:Additive Manufacturing)活用への関心は年々高まりを見せている。金属AMで造形したジェットエンジンの部品が航空局の認可を受けて出荷され始めたり、AMでないと造形できない設計で軽量化を実現したり、材料の無駄を圧倒的に少なくしたりといった成功事例を目にする機会も増えた。

 では金属AMが身近になったかというと、多くのメーカーにとってそんな実感はないのが正直なところだろう。単価の高い航空機部品や一品物の造形が中心なのに加え、そもそも金属3Dプリンター自体が高価で中小企業や町工場にはなかなか手が出ない。

 その金属3Dプリンターを他社に先駆けて導入し、積極的に使いこなしているのが、伊福精密(本社神戸市)だ。同社は神戸市の本社と中国に工場を持ち、高精度・高品質の金属加工を得意とする従業員45人ほどの金属加工メーカー。ワイヤカッターや型彫放電加工機、マシニングセンターといった工作機械を80台ほど有しており、単品の試作加工から月産数十万個規模の量産加工まで幅広い要求に対応する。そんな同社が、近年金属3Dプリンターの活用に力を入れていると聞き、伊福元彦社長に話を伺うべく筆者らは神戸へ向かった。

図1 本社玄関前の社用車
リアウインドーには同社のモットーである「金属加工のかけ込み寺」の文字。どんな困り事にも「伊福和尚」(社長の伊福氏)が相談に乗ってくださるとのこと。(写真:ベッコフオートメーション)
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「MAKERS」を読んで一気にのめり込む

 「金属を粘土細工のように造形できる魔法の機械」――。その可能性に目を輝かせる伊福社長が金属3Dプリンターと出合ったきっかけは、「リーマン・ショック」だった。受注量が前年比で70%もダウンする危機的な状況に見舞われた上に、続いて起こった地震や台風、火災、事故などで同社の主要顧客である自動車業界のサプライチェーンが甚大な被害を受けた。

 激変した事業環境の変化への適応が大きな経営課題となる中、同氏は「MAKERS」(クリス・アンダーソン著)という本に出合う。そこに書かれていたのがAM技術を活用した未来のものづくりだった。そのイメージに、「『これだ!』とピンときてのめり込んだ」同氏は、その勢いでドイツのコンセプト・レーザーの金属3Dプリンターを導入したのである。

 「でも新しい分野のビジネスのアイデアなんて最初は何もありませんでした」。そこで伊福氏が始めたのは、それまでのB2B一辺倒からB2Cにまで視野を拡大した活動。海外の顧客や個人の顧客など、えり好みせずに展示会やWebサイトで金属AM技術を売り込み、新規の顧客開拓に注力した。

 金属AM技術の活用を通じて、同氏は顧客と共にものづくりができる組織に自社を進化させ、ビジネスモデルを大きく転換していく必要性を肌で感じるようになったという。いずれは「実用的で新たな製法として認められるところまで金属AM技術を極めたい」と意気込む。

図2 伊福精密が金属AMのサンプルとして造形したこま
鎖帷子(くさりかたびら)のような構造で金属らしからぬ柔らかさを実現。回すと6辺が遠心力で広がる。(写真:ベッコフオートメーション)
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