夏休み中にまとめて読書しよう――。そう思っている日経 xTECH読者は多いことだろう。IT分野で活躍するキーパーソンに、悩んだときの心の支えになったり、仕事に対する考え方に影響を与えたりした書籍を紹介してもらった。

 三菱ケミカルや田辺三菱製薬などを傘下に持つ三菱ケミカルホールディングスで、グローバルIT戦略の立案を現場で指揮するのが板野則弘氏だ。板野氏は「今後の企業ITに携わる者に必要となるのはITや業務の知識だけではない。芸術、文化、美術といったリベラルアーツ(教養)が課題解決の糸口になる」という持論の持ち主。そんな板野氏にオススメの書籍を聞いた。

三菱ケミカルホールディングス 情報システム室長 板野則弘氏
1989年、三菱化成(現三菱ケミカル)に入社。水島事業所の生産技術部門に配属になる。1996年に生産技術の米国拠点を立ち上げるため、米シリコンバレーに赴任。帰国後、2000年に三菱化学の情報システム部に異動する。2012年に情報システム部長。2015年から現職。

生命の暗号

(文庫)生命の暗号
村上和雄著/サンマーク出版/571円+税
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 1冊目は、分子生物学者である村上和雄氏の著書『生命の暗号』。板野氏は同書が示した「プラス思考でいることや熱烈な思いを持つことが、良い遺伝子を目覚めさせる。それにより、不可能と考えていたことを可能にする」というメッセージに強く共感した。

 板野氏がこの本を読んだのは、1990年代半ばに米シリコンバレーに赴任し、IT関連の仕事をし始めたときのことだ。ちょうどインターネットが急拡大した時期でもあった。職場環境の変化とインターネットによる社会の移り変わりを同時に経験し、板野氏は戸惑っていた。この状況で同書を読み、勇気づけられたという。

 「人間の持つ無限の可能性を信じることができた。強い思いを持てば困難な状況を克服し、新しい世界を切り開くことができると、思い直すことができた」(板野氏)。

ザ・ゴール

ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か
エリヤフ・ゴールドラット著、三本木亮訳/ダイヤモンド社/1600円+税
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 シリコンバレー赴任後、板野氏は2001年から石油化学工業協会で、化学業界向けの国際的なEDI(電子データ交換)規格である「Chem eStandards」の普及推進リーダーを務めた。企業の枠を越えて関係者とともに化学業界全体の業務最適化を目指した。

 そのとき板野氏が参考にしたのが、経営管理手法のTOC(制約条件の理論)を小説仕立てで解説した『ザ・ゴール』。「企業の中にいると、どうしても部門の都合を優先する部分最適の思考に陥りがち。同書を読んで全体最適の重要性を改めて知ることができた」と板野氏は言う。その後、管理職として様々なプロジェクトマネジメントを担当する際に、この本で得た知識を役立てた。

サーチ・インサイド・ユアセルフ

サーチ・インサイド・ユアセルフ
チャディー・メン・タン著、柴田裕之訳/英治出版/1900円+税
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 管理職として自身のマネジメント手法を確立してからも、板野氏の試行錯誤は続いた。これまでの仕事の進め方に行き詰まりを感じていた2016年、『サーチ・インサイド・ユアセルフ』に出会う。能力開発手法の「マインドフルネス」を解説した書籍だ。

 マインドフルネスは、禅の教えから宗教色を取り除き、脳科学の観点から研究されたもの。集中力を高めるほか、ストレスの軽減や脳の活性化、チームワークの強化、生産性の向上、創造性の発揮などに効果があるとされる。米グーグルや、欧州SAP、米セールスフォース・ドットコムなどが従業員研修で取り入れた。

 板野氏はこの本をきっかけにマインドフルネスの研修プログラムに参加。実践した結果、「仕事の進め方を変えることに成功し、仕事に対する集中力がついた」と話す。