植物由来の新材料として話題の「セルロースナノファイバー(CNF)」。水面下で実用化に向けた開発が急ピッチで進んでいる。しかも、クルマからシューズ、文房具、生理用品に至るまで幅広い分野から商品化に向けた大きな期待が寄せられている。課題ばかりが強調される新材料の中でこれは珍しい。これほどまでに技術者や研究者、企業を引き付けるCNFの魅力とは一体何か。

 果たして、セルロースナノファイバー(CNF)でクルマを造れるのか──。この挑戦的な問いに対する現時点での“回答”が、図1図2に示す「CNF製スポーツカー86」だ。トヨタ自動車の小型スポーツカー「86」の鋼を主体とするボディーを、可能な限りCNFを使った部品(CNF製部品)に置き換えたコンセプトカーである。環境省の「NCV(ナノセルロース自動車)プロジェクト」から生まれた秀作だ。フロントフードやトランクフードといった大物部品からインテークマニホールドのような機能部品までCNF化。それぞれの部品に求められる機能や仕様をどこまでCNF製部品で満たせるかを検証するプロジェクトである。

図1 CNFで造ったコンセプトカー
トヨタ自動車の86の現行の鋼製部品をできる限りCNF製部品で置き換えた。大物部品であるフロントフードのCNF化が最も目立つ。
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図2 リアビュー
トランクフード(天板)もCNF製部品に切り替えた。
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 今、実用化に向けたCNFの開発が熱を帯びている。自動車業界だけではなく、電機業界や製靴業界、建築業界などでも開発が活発だ。そのため、CNFの知名度は徐々に高まっているが、ここでもう一度CNFとは何かについて振り返っておこう。

 CNFは、植物の主成分であるセルロースから抽出した繊維状の材料だ。直径が数~数十nm、長さが0.5~数μmの極めて細く短い繊維である(図3)。木材などを化学的、あるいは機械的に処理してセルロースを抽出し、細かくほぐして製造する。 

図3 セルロースナノファイバー
植物の主成分であるセルロースから抽出した繊維状の材料。直径が数~数十nm、長さが0.5~数μmの細くて短い繊維。(写真:星光PMC)
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 新材料の中で、CNFで特筆すべきは印象の良さだ。計画的に栽培することで持続可能な木材から採れる究極の「グリーン材料」であることが、その最大の理由である。加えて、日本人が昔から木造の建物に慣れてきたことも、安心感や親しみやすさを生んでいる。建築や内装デザインの分野では、高い質感や高級感を出すために材料に木材を使う流れが出来ており、これもCNFへの好印象を後押ししていると言える。

 特性を見ると、密度(比重)が小さい割に強度が高い()。すなわち、軽くて強い軽量化材料に適していることが分かる。86をはじめ自動車業界からの注目度が高いのはそれ故だ。だが、それだけではない。熱変形が小さい、表面積が大きい、透明度が高い、チキソ性〔力を加えないときはゲル(固体)状を保ち、力を加えるとゾル(液体)状に変化する性質〕がある、ガスバリア(気体の遮断)性を持つなど、まさに変幻自在の特性も備えている。しかも、まだ発見されていない特性が今後見つかる可能性もある。従って、軽量化材料としての応用以外にも、実用化の期待がかかる。実際、既に文房具や衛生用品、シューズなどで新機能を生かした商品が販売されている。

表 繊維材料の特性の比較。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や京都大学の資料を基に日経 xTECHが作成。
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 実用化に向けたCNFの開発が活発になった背景には、2つの大きな技術のブレークスルーがある。1つは、低コスト化を可能にした「京都プロセス」。もう1つは、多機能化を可能にする「TEMPO酸化CNF」である。

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