転職は、人生における大きな決断の一つである。人はどんなときに、会社を辞める決心をするのか。そして、次の職場をどのように探しているのか。今回は、大手メーカーのIT部門を振り出しに、3回の転職を経験している加野洋一郎さん(仮名)に迫る。

どんなお仕事をしていますか。
外資系の業務用機器メーカーで、製品マネジャーをしています。海外本社とやり取りしながら、国内での製品開発の進捗管理や、課題管理に携わっています。
現在の会社は、4社目です。過去、3回の転職を経験しています。
最初に入社したのは、どんな会社でしたか。
工学系の大学院を出て、国内の大手メーカーに入社しました。所属は材料系の学科でしたが、私自身は経営工学的な分野を研究していました。テーマは、今風にいえば「AI(人工知能)を使って生産計画を立てる」といったところでしょうか。
就職先を決める際は、製造系システムに携わりたい、海外事業にも関わりたいといった思いがありました。それで、自社で幾つも工場を持っていて、グローバル展開もしている大手メーカーを選びました。
配属されたのはIT部門。その会社のIT部門はシステムのお守りだけでなく、事業を動かすためのIT活用も手掛けていました。経営とITの両方に近い仕事ができそうだと、入社前からIT部門を志望していたのです。その希望がかないました。
思い通りの仕事ができましたか?
いえ、実は入社して間もなく、研究部門に異動になったのです。研究部門が材料系でITが分かる若手を探していて、一本釣りされました(苦笑)。そこで、材料系のシミュレーションソフトの開発を手掛けることになりました。正直いって不本意でしたが、会社員ですから仕方ありません。シミュレーションについてはほぼ素人だったので、一から勉強して取り組みました。
数年後、ソフトを社内で使うだけでなく、外販しようというプロジェクトが立ち上がりました。私はプロジェクトマネジャーに任命されて、商品企画や協業先の開拓、メンバーのマネジメントまで手掛けました。1年ほど試行錯誤した後、何とか商品化にこぎ着けました。
社外からも評価されて、そこそこ順調に売れました。今思えば、あの頃は楽しかったですね。時々、辞めなければよかったな、と思うこともあります(笑)。
どうして辞めたのでしょう。
所属部署ごと、事業が子会社に移管されることが決まったのです。利益は上がっているけれど本業ではないので、「外に切り出す」という判断をされたわけです。私は子会社に転籍になりました。
そこで改めて自分のキャリアを考え直しました。もともと経営や事業拡大のためのIT活用に取り組みたくて、希望通りの部署に配属されたのに、突然異動させられた。そのことに対するわだかまりがずっと心にたまっていて、この思いを抱えたまま、子会社で残りの会社人生を送るのは嫌だ、と感じたのです。
それで、人材エージェントに登録しました。30代前半のことです。
専門スキルのある技術系若手人材。引く手あまただったのでは?
意外に苦戦しました。書類選考ではねられることが多くて。どうやら書類で専門性を強調しすぎて、「シミュレーションしかできない人」と思われてしまったようです。
そんな中、決まった会社はシミュレーションに強いIT企業でした。ITコンサルタントとしての採用です。初めての転職ですし、決意も新たに仕事にまい進しようとしたのですが、待っていたのは修羅場でした。