やりがいがあったのに、なぜ辞めたのですか。

 夫の海外赴任が決まったのです。夫はその会社に転職後に出会った人で、結婚したばかりでした。

 当時はまだ、配偶者同行休業制度のようなものはありませんでした。夫についていくなら退職するしかなくて、会社を辞めて米国で専業主婦生活を送りました。

 帰国は2年後。帰国してすぐ、就職活動をしました。

そのまま専業主婦を続けようとは思わなかったのですか?

 私は、専業主婦が苦痛だったので。家の外に出て働きたいという気持ちがありましたし、夫とはいえ他人が稼いだお金に頼って生活するのもイヤでした。欲しいものがある、美味しいものが食べたいというときも、なんだか肩身が狭くて。

 それで、再度働き始めました。今度の職場も製造業で、旧財閥の流れをくむ大手。前職と同じ業種ですし、同じようにやりがいを持って働けるだろうと思っていました。ところが待っていたのは、財閥の悪夢でした。

会議のための会議、メールの謎ルールにうんざり

えっ。どんな悪夢ですか?

 社内組織のヒエラルキーがはっきりしていて、ある意味、役所よりも官僚的でした。私にとっては、無駄に思える仕事が大量にありました。

 例えば会議一つとっても、会議のための会議に追われる毎日でした。上層部の誰かから「オレは聞いてない」と言われるのを避けるために、一人ひとりに事前に根回しをするんです。そうして、あらかじめ全員に説明が済んだ状態で本番の会議を開く。その会議自体は、ほぼ形ばかりの儀式でしたね。

 会議資料の準備も大変でした。内容だけでなく、用紙の向きが縦か横かとか、どの位置で閉じるかといったことにも気を使わなくてはいけないんです。上層部でも人によって好みが違って、誰向けの資料かによって印刷のスタイルや閉じ方を変えたり……。ナンセンスですよね。

いわゆる大企業病というものでしょうか……。

 はい。そういえば、メールの書き方にも謎ルールがあったんですよ。事業部門や役職ごとに決まった呼称があって、メールではその呼称を使うことが絶対とされている。入社直後、そのルールからはずれたメールを書いてしまったことがあるのですが、即、上司が飛んできて「江上さん、さっきのメール違うよ!」と注意されました。

 宛名のあとに決められた役職名を付けるべきところを、「さん」付けにしてしまったというだけなのですが、そんなことで叱られるとは。ルールを覚えなくては、社内メール1通書けない。スピード感を求めて役所から一般企業に転職したはずなのに、役所よりひどかったですね。

それで、転職を決めたのでしょうか。

 はい、もう耐えられない、と思って次を探しました。

 実際には、プライベートでの変化も影響しています。海外勤務からの帰国後、夫は子供を欲しがっていました。私も子供を望む気持ちはありましたが、再就職したばかりで、何となくためらいがありました。

 もやもやを感じながら不妊治療にも臨みましたが、なかなか子供はできませんでした。だんだん苦痛に感じるようになってきて。夫ともすれ違いが生じて、結局、夫とは別れました。そして、会社も辞めました。