正林 真之 氏
正林国際特許商標事務所 所長・弁理士、国際パテント・マネタイザー

 前回は「がん免疫療法」に関する概要と、特許出願動向から見える日本の製薬企業が置かれている状況やバイオ医薬品の開発費用などを紹介した。「IPランドスケープ」による分析では、特許分類や特許文献中のキーワードを切り口として作業を進めていくことが多い。しかし、1つの切り口だけではなく複数の切り口から分析することで、多様な情報が見えてくる。

 今回は、特許分類とキーワードの両方の切り口から、本分野における開発トレンドや各社の発明の特徴の分析を進め、今後の開発の流れを予測していきたい。

特許分類を切り口とした分析から見える開発トレンド

 図1は2008~2013年の件数を基準とした場合に、2014年以降に大きく件数が伸びた特許分類をランキングしたものである。特許分類については本コラムの第8回でも述べた通り、各国の特許庁が精緻に整備しているインデックスであり、記載された発明の内容に基づいて1つひとつの特許文献に付与されている。そのため、軸として使うと精度の高い検索・分析を行うことができる。ここでは日本特許を対象として分析を行うため、日本特許庁が国際特許分類(IPC=International Patent Classification)を独自に細分化して展開したFI(File Index)を使って分析を行った。

図1●がん免疫療法の日本特許出願において直近5年で付与件数が伸びているFI特許分類
(出所:正林国際特許商標事務所)
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 これを見ると、最も件数が伸びているのは「A61K35/17(リンパ球;B細胞;T細胞;ナチュラルキラー細胞;インターフェロン活性化またはサイトカイン活性化リンパ球を含む医薬品製剤)」だ。これには、がん抗原特異的T細胞(CAR-T細胞)に関する発明が多く含まれている。前回述べた通り、CAR-T細胞療法に関する出願は近年右肩上がりに増加しており、これを反映するものである。

 次に伸びているのは「A61K47/68(修飾剤が抗体、免疫グロブリンまたはそれらの断片である重合体医薬結合体)」だ。これには「抗体‐薬物複合体」に関する発明が多く含まれる。「抗体-薬物複合体」とは、図2に示すような抗体と低分子化学療法剤などの薬物とをリンカーを介して結合させた構造を有するハイブリッド医薬品である。がん細胞などのターゲットに対する優れた標的指向性を持つ抗体と、強力な細胞傷害活性を持つ低分子化学療法剤の特徴を併せ持つ。そのため、それぞれを単体で使う場合に比べて高い効果が見込まれている。

 近年の当該FIが付与された出願人ランキングを見ると(紙面の都合上割愛)、日本企業では第一三共が上位に位置しており、がん特異的抗体-薬物複合体の開発を積極的に進めている様子がうかがえる。

図2●抗体‐薬物複合体のイメージ
(出所:正林国際特許商標事務所)
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 次に注目したいのは「A61K45/06(化学的特性を持たない活性成分の混合物を含有する医薬品製剤)」だ。これには「阻害剤などの化学療法剤同士の組み合わせ」や「免疫チェックポイント阻害薬と化学療法剤の組み合わせ」、「免疫チェックポイント阻害薬同士の組み合わせ」などによる「併用療法」に関する特許が多く含まれている。「オプジーボ」を始めとした免疫チェックポイント阻害薬の奏功率は10~30%程度といわれており、奏功率の低さが課題となっている。その解決手段として、近年はこうした併用療法に関する開発熱が非常に高まっている。臨床試験が進んでいるものも多く、各社から単剤投与に比べて有意な効果が認められたと発表されていることからも、今後の開発動向が注目される。

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