正林 真之 氏
正林国際特許商標事務所 所長・弁理士、国際パテント・マネタイザー

 適切に運用された「IPランドスケープ」は、さまざまな事業戦略あるいは経営課題に対する解決策を提示できる有用なビジネスツールとなる。前回まで、IPランドスケープを行うに当たり、調査対象の特定や特許文献の母集団の作成が分析結果を左右する重要な作業であることを紹介し、今後重要になる可能性がある技術の抽出例を説明してきた。

 今回は、IPランドスケープを企業の価値評価の視点で使用した場合の事例として、第5世代移動通信システム(5G)の技術開発を題材に紹介する。

 はじめに、技術開発を中心にした5Gの現状をながめてみよう(調査対象:日本や米国、欧州、中国などの特許文献)*1。これは、5Gという漠然とした調査対象の中から、主要なプレイヤーと技術領域を明確にするための重要な作業である。この作業は、主に特許文献と非特許情報(今回分は文末に掲載)を利用する。

 5Gの商用導入は、総務省の発表しているロードマップでは2020年を予定している。ただ、特許情報を見る限り、商用導入直後は、4Gの進化型であるeLTE(enhanced Long Term Evolution、本コラムでは4.5Gと称する)が中心となり、限られた地域や場面での運用になると推測される。これは、本格的な5G導入に向けた新無線インターフェース規格(New RAT:New Radio Access Technology)をベースとする特許の出願が、eLTEに比べて進んでいないためである(図1、縦軸の数量の違いに注意)。そのため、5Gの本格的な導入は、数年先となる可能性も考えられる。

*1 総務省の「電波政策2020懇談会 報告書」より。
図1●通信分野の技術動向
(a)は 4.5Gの出願動向。(b)は 5Gの出願動向。海外特許・意匠検索システム「Orbit」により正林国際特許商標事務所が作成。
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 5Gの技術開発の遅れは、もともと開発が高度であることに加えて、導入の前倒しによる国際的な標準化作業が追い付かない部分が大きく影響している。現状は、総務省による通信各社へのヒアリングが、2018年10月3日にようやく終了したところであり、もし標準化の規格が今後変更になれば、5G関連の各社は、大幅な仕様変更を余儀なくされる。そうした状況で、各社の技術開発は、周波数帯や国際規格といった条件の決定を待って、eLTE用の技術を5Gへ転用すべく進められると考えられる。つまり、詳細な技術開発は、規格が決定してから一斉に開始すると推測される。

 図2は、5Gに関連する特許の出願動向を示したものである。現時点では、韓国サムスン電子(Samsung Electronics)を含む韓国勢が、冬季五輪の効果もあってか、出願の多数を占めている。しかし、今後は、国家プロジェクトとしてインフラ整備を進める中国ファーウエイ・テクノロジーズ(Huawei Technologies)、中国ゼット・ティー・イー(ZTE)などの中国勢、国家戦略を巻き込んだ米インテル(Intel)、フィンランドノキア(Nokia)などの欧米勢が、巻き返しを図る可能性がある。一方、携帯端末の製造をやめた日本勢の技術開発は、通信キャリアとそのパートナーのみが担うこととなり、地盤沈下が否めない状況である。

図2●5Gの出願状況(主要プレイヤーは誰か?)
Orbitにより正林国際特許商標事務所が作成。
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