瀬戸内の島々を舞台に、多数のアートワークを生んできた「ベネッセアートサイト直島」。アートと一体となって建築が生き、地域に溶け込む。建築家の描いた理想を実現する施工技術が、島の魅力づくりを支えてきた1つだ。

本土との間のアクセス拠点の1つ、直島北西部の宮浦港。岡山県玉野市の宇野港から航路で約20分(写真:日経 xTECH)
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「海の駅『なおしま』」。宮浦港で客を迎えるフェリーターミナル。完成:2006年、設計:SANAA(写真:日経 xTECH)
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 瀬戸内海に浮かぶ香川県の離島、豊島。2010年3月11日の朝9時、棚田に囲まれた高台に2台のポンプ車が到着し、滑らかに成形された盛り土の上に、白いコンクリートの打設を開始した。盛り土を型枠代わりに用いる前代未聞の施工方法だ。

 島では製造できない高強度コンクリート用の生コンは、沖合いのプラント船から供給。晴れた冬の日を選び、ワンルームの躯体を継ぎ目なく一息に打つ、という工事だった。

豊島美術館の大屋根のコンクリート打設中の様子。盛り土の表面に薄くモルタルを塗り、その上に鉄筋を組んでコンクリートを打設した(写真:鹿島)
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 設計を西沢立衛建築設計事務所、施工を鹿島が手掛け、現代美術家の内藤礼氏の作品と一体となる豊島美術館の計画は、島でも話題だった。大々的に告知したわけではないのに、工事の話を聞き付け、この日は見学者が現場を取り巻いた。

 水滴を模した建築造形。厚さ250mmのコンクリートシェル構造で、平面60m×40m程度、最頂部4.67mの扁平な無柱空間をつくる。表面に塗ったモルタルと合わせて型枠の役割を担う盛り土は、計測ポイント3600カ所に及ぶ3次元測量で成形。設計図との誤差は5mm以内と設定された。型枠に土を使うという発想は、船舶用の鋳物の製造工程をヒントにしたものだった。

 打設したそばから、大挙して屋根に上った左官が仕上げを始める。その大屋根工事の山場には一昼夜を要し、開始から26時間後の翌日午前に完了。見守っていた島民から、自然に拍手が起こったという。

 同年10月に無事、開館。コンクリートシェルを実現するための構造設計は、佐々木睦朗構造計画研究所が担当した。

2010年10月開館の豊島美術館。館内では、内藤礼氏の作品「母型」と建築が一体となっている。福武財団は、2009年に発足した豊島「食プロジェクト」推進協議会の活動の一環として、美術館の所在する土庄町、および唐櫃棚田保存会との協働で、建物の周辺に広がる休耕田を整備する「棚田プロジェクト」を続けてきた(写真:森川昇)
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