現代の観光(ツーリズム)は、目的地として訪れる場所、あるいはその途中で出合い得る様々な場所の価値を読み直し、結び付け、多様なストーリーづくりを指向している。その中で、必ずしも明確に生かされてこなかったのが「技術(テクノロジー)」という観点だ。そこで本記事から始まる日経 xTECH特集では「テクノツーリズム(技術観光)」という言葉を掲げ、「技術」という資源がいかに観光を変え得るかを多角的に探ってみる。

 近代化の過程で「技術立国」を成し遂げ、現在なお国際的な競争力の源泉である様々な「技術」が、我々の生活をどう変革したか。歴史・文化の中でどんな意味を持ち、地域の中でどんな価値を持つか。そうしたストーリーは、日本の魅力や国土の特性を明快に伝えるものとなり得る。

 21世紀の観光の多様化は、いわゆるマスツーリズム──団体旅行やパッケージツアーといった規格化されたスポット巡りとは異なる、より個別化、個人化された旅のニーズによって表れた。

 それらを観光庁は「ニューツーリズム」あるいは近年は「テーマ別観光」と呼び、地域活性化やインバウンド(訪日外国人)対応の策として2000年代半ばから振興を図ってきた。旧来型の観光に対し、「これまで観光資源としては気付かれていなかったような地域固有の資源を新たに活用し、体験型・交流型の要素を取り入れた旅行の形態」と位置付けている。

 自然環境を活用し、その保全に関する学びを得るエコツーリズム、食を活用するガストロノミーツーリズム、映画・テレビなどのロケ地を活用するロケツーリズムなど──。様々な地域資源や歴史・文化資源が観光の魅力づくりに反映され始めている。ここにテクノツーリズムが加わってもおかしくない。

「観光地域づくり事例集〜グッドプラクティス2018〜」(2018年3月発刊)より。「特定のテーマに重点を置いた観光振興」として、エコツーリズム、ガストロノミーツーリズム、ロケツーリズムのほか、酒蔵ツーリズム、サイクルツーリズムなど様々な事例を紹介している(出所:観光庁)
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産業観光とインフラ巡りに対する高い関心

 テクノツーリズムの手がかりは幾つかある。例えば、「産業観光(インダストリアルツーリズム)」と呼ばれる分野や、その一種である「インフラツーリズム」と呼ばれる分野だ。

 産業観光は、いわゆる「産業遺産(遺物・遺構・遺跡)」を訪れる旅と、現在も操業、稼働する産業の現場──主に工場を訪れ、ときにその従事者と交流するような旅に大別できる。

 経済産業省が2007年、09年に認定を進めた「近代化産業遺産」は、産業観光の対象地を網羅的に整理したものだ。合計66のストーリーの下、近代日本の発展に寄与した産業技術をしのばせる建築物や機械などが1115件、ずらりと並ぶ。一方、今も操業、稼働中の場合は、ものづくりの現場それ自体が観光の対象となる。「工場見学」が、その代表例だ。

 いずれも製造業のイメージが強いが、農林水産業などを合わせ、より広義の産業技術を対象とする考え方もあり得る。

長崎市「軍艦島」(端島炭坑)。「明治日本の産業革命遺産〜製鉄・製鋼、造船、石炭産業」のうちの1物件として、ユネスコが2015年に世界遺産に登録。炭鉱の歴史を知る、代表的な産業観光スポットの1つ(撮影:日経アーキテクチュア)
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 そして、産業観光の一種で、ダム、川・砂防、橋など土木構造物を活用するインフラツーリズム。様々な公共財の中で、文化的な機能をそぎ落とした「建設技術の塊」として存在してきたのが、これら土木インフラだ。国づくりに果たす役割を改めて訴えるべく、管理者が積極的に見学などを受け入れる事例が目立つ。2016年には国土交通省総合政策局がポータルサイトを開設し、300数十件のツアー対象が紹介されるほど資源に恵まれる。テクノツーリズムの対象となり得る筆頭格だ。

群馬県長野原町「八ツ場(やんば)ダム」。インフラツーリズムの一環として、八ツ場ダム観光プロジェクト「やんばツアーズ」を展開中。写真は、2017年7月開催「ホタル観賞と夜間工事見学 “やんばホタルツアー”」の際に撮影(撮影:大上 祐史)
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 インフラツーリズムを応用すれば、その建築版も潜在力のある分野だと分かる。

 人間の営みの基盤である建築は、土木、造船など近接する領域まで取り込んできた「建設技術」「構造技術」のほか、地域性と切り離せない「素材(製造)技術」「環境(設備)技術」などの集積された、宝庫のような存在だ。その時代の社会・経済や文化を写し取る「設計技術」まで合わせて改めて読解すれば、観光の魅力となる技術資源がアーカイブされた対象として活用できるのは間違いない。

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