「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」の2017年度の採択事業者5者に、学識者やジャーナリスト、国土交通省の担当者が参加してパネルディスカッションを開催した。テーマは「どうすれば次世代住宅は普及するか」。後編は、「今後、取り組むべきテーマ」について討議した様子をリポートする。(前編はこちら

パネルディスカッションの様子
(写真:都築雅人)
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  • 【パネリスト】
    • 小山貴史 一般社団法人 ZEH推進協議会 代表理事
    • 池澤仁志 三井ホーム 技術研究所 研究開発グループ
    • 我山洋光 東京建物 住宅事業部 事業推進グループ
    • 前田俊輔 芙蓉ディベロップメント 代表取締役
    • 山本徹 LIXIL ZEH推進事業部 ZEH推進商品開発部・構造体開発グループ
    • 一色正男 神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科 教授 スマートハウス研究センター所長 博士(工学)
    • 池本洋一 リクルート住まいカンパニーSUUMO編集長
    • 村上慶裕 国土交通省 住宅局 住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官
  • 【モデレータ】
    • 桑原豊 日経BP総研 社会インフラ研究所

会場のみなさんにご意見をお聞きします。「次世代住宅で、あなたが取り組みたい分野は次のどれですか? 」

「次世代住宅で、あなたが取り組みたい分野は次のどれですか? 」
高齢者・障がい者等の自立支援(17票)。健康管理の支援(23票)。防犯対策の充実(8票)。家事負担の軽減、時間短縮(31票)。コミュニティの維持・形成(14票)。物流効率化への貢献(9票)。その他(5票) (資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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「家事負担の軽減」が多く、次いで「健康管理」、「高齢者・障害者の自立支援」が高いですね。
 採択事業者の方に、今回提案ではどういった住まい手を想定してテーマを決めたのかを伺います。我山さん、東京建物ではどのような住まい手を想定していますか。

東京建物の我山洋光氏
(写真:都築雅人)

我山(東京建物):私どもは、IoT技術を導入する提案の分譲マンションが、小田急線沿線のベッドタウン(川崎市多摩区)という立地でもあり、ファミリー層、それも若い方が多いと想定しています。具体的には、「30代~の子育て世帯」と明確に設定しました。

 急行で新宿へ20分足らずにも関わらず緑溢れる住環境という、このロケーションの下、共働き世帯にも充実した子育てをしていただきたいという思いがあり、そこにフォーカスを当ててこのマンションをつくっています。

 今回、採択事業については、物流効率化というテーマで応募したのですが、私共の提案が上手く機能すると、ものが受け取りやすくなります。それはイコール、家事も楽になると考えております。仕事の合間にネットスーパーで宅配を頼んで、家に帰ったら食材が着いているということが実現できます。新宿で17時まで働いても、30分で家に着きますので、18時から夕食のお料理ができるという幸せなファミリーをつくっていきたいという強い思いがあります。

池澤さん、三井ホームでは、どのような住まい手を想定していますか。

三井ホームの池澤仁志氏
(写真:都築雅人)

池澤(三井ホーム):私どももIoTをけん引していくという面で、「家事らくらく」というところをしっかりとらえていきたい。これは、30〜40代の夫婦と子供からなる「子育て世帯」を主な対象と考えています。

 さらには、60代以上の方からの受注も増えてきているようです。私どもが想定している以上に、各世代が「家事らくらく」というところに共感されているのだということがわかりました。

やはり、今の新築の戸建て、マンションについて、その主たる対象となる住まい手は、「共働きの子育て世帯」を想定されているようです。そこに着目すると、導入するIoT技術については、家事負担軽減というテーマが注目されているということですね。
 前田さん、芙蓉ディベロップメントでは、ターゲット層がかなり特徴的とうかがいました。

芙蓉ディベロップメントの前田俊輔氏
(写真:都築雅人)

前田(芙蓉ディベロップメント):私どもの主たる顧客は、60歳前後で、ほかの住宅供給者とは傾向が違います。たとえば、私は今年50歳になりますが、40歳を超えてくると、普通に暮らしていると健康を維持できないようになってきます。運動をしたり、薬を飲んだりして健康を維持する努力をします。45歳くらい以降の、これから高齢者になるんだ、という感覚を肌で感じてきている世代が対象かなと思います。

 人は1つ歳を取るごとに0.07度体温が下がるそうです。70歳では、若い頃と比べて体温が0.5度下がるそうです。これは個人個人で差があります。通常の医学の常識でいくと、具合が悪くても体温が36度台なら、病院に行ったところで異常が発見できないということになります。個々人の基準値と変動幅のバイタルデータが明らかでないと、医師も判断が難しいのです。

 ですから、今後は普段から家でバイタルデータを記録することが大切です。2020年に国は、個人の医療・介護・健康データを本人の同意の下に収集するPHRサービス(パーソナルヘルスレコード)の運用を開始すると言われています。

 個人の医療関連の情報を一括で管理して、仮に遠方で医療機関にかかる際にも自分のデータを示すことができるようになります。

 そうなると日頃のデータを持っている人と、持ってない人で医療機関の対応が変わってきます。例えば救急車で運ばれた場合、データが揃っている患者については、医師がその情報にアクセスできて、その人にあった的確な医療行うことが可能になります。

 人の命に係わることころにおいて、普段からバイタルデータを記録しているかどうかで違ってくる。バイタルデータを取ること自体は、技術的には難しくありません。家庭においてこうしたデータを、きちんと記録できる体制を整備することが求められます。

バイタルデータを採り記録することが、芙蓉ディベロップメントの提案の特徴だと思います。それに対応する住まい手として、高齢者が中心になるということで、それはもともとの住宅の顧客層と合致しているということですね。
 会場からの質問を見てみましょう。
 「有事に備えて(故障も含む)、設備に頼らない生活の習慣も忘れさせない取り組みも必要」という投稿があります。完全に設備でフォローさせてしまうと、それが使えなくなった時に困ってしまうとうことでしょう。その対策について、池本さんご存知の例がありますか。

リクルート住まいカンパニー・SUUMO編集長の池本洋一氏
(写真:都築雅人)

池本(リクルート住まいカンパニー):私が見聞きしたなかで参考になりそうな事例に、マンション管理組合の防災訓練で「本気の防災訓練」というのがあります。これはどういうことかというと、防災訓練において、本当に電気を止める、ブレーカーを落として訓練を行うというものです。

 トイレの水が自動で流れなくなり、手動で流さないと流れません。それを敢えてみんなでやって体験する。

 指摘される通り、IoTが進んだ未来において、電気が途切れた時の対応をセットでやらないと、逆に有事の時のリスクを増大させる可能性が高い。こうした考え方は、ほんとうに必要だと思います。

「スマートハウスの定義の解釈が広すぎるため、普及のターゲットが曖昧ではないか?」という質問があります。一色先生いかがでしょうか。

一色(神奈川工科大学教授):指摘の通り、スマートハウスの範囲は広いと思います。逆に、範囲が広いから何をやっていてもいいという言い方もできます。多様な解釈をしてもらって差し支えなくて、ビジネスにつながればいいのではないかというのが、私の個人的なコメントになります。

「スマートスピーカーは日本人の気質に合うのか?」という質問があります。

池本:なかなか慣れませんよね。みなさん、AIスピーカーに照れずにしゃべりかけていますか?

大人はそうですが、子供はスマホの音声検索を積極的に使っています。音声であれば、ITリテラシーの低い人でも使いやすい。これからは、そういう面で、AIスピーカーも普及する可能性があるのではないでしょうか。

神奈川工科大学教授の一色正男氏
(写真:都築雅人)

一色:たしかに、子供は全く当たり前にAIスピーカーと話します。そういう意味では面白い世界だなと感じます。

 スマートハウスについて、これは皆さんも経験されていると思いますが、「しゃべる家はうるさい」という課題があります。エアコンに話す機能を付けたのはいいけれど、エアコンが話すたびにうるさいので「切ってくれ」ということになったといいます。

 ただしAIスピーカーの登場は、エアコンとは違い、いろいろな会話が相互に可能になり、その先には違う世界があるかもしれないという意味では期待しています。AIスピーカーの先にモノをつないで、本当に役に立つのか、家事の軽減に役に立つのかは非常に重要なテーマで大変期待しています。

 今、わたしの大学では、キッチンでの調理についてロボットを使ってどのように手助けするかという実験をやっています。主婦の方は喜んで協力してくれるのですが、いまのところ「手助けの中身が陳腐で、まだまだですね」という結果です。もう少し検討が必要かなという感じです。

 この会場におられる住宅関係やIT分野の方々が、こうした新しい技術をどう使うのか、これはチャンスでもあるので、これから考えていただければよいと感じています。

国土交通省の村上さん、「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」について、来年度、期待することなどお話しください。

国土交通省の村上慶裕氏
(写真:都築雅人)

村上(国土交通省):今後、取り組むべきテーマということでは、会場からの意見でも「高齢者への対策が喫緊の課題」として挙げられています。昨年度の次世代住宅懇談会でテーマを整理した中でも最初に挙げたのは、「高齢者・障がい者の自立支援」です。これからの高齢化の進行・就労人口の減少を見据えると、次世代住宅にいちばん対応を期待したいのはこの分野です。

 高齢者・障害者が、自分たちを自立して暮らせるような住宅をいうことになれば、家事負担の軽減にも当然繋がるでしょうし、健康にもつながるのではないかというのもあり、全体をみて目指すべき最終目標はそこに近いのではないかという思いがあります。

 テーマ以前に、個人情報の課題、芙蓉ディベロップメントの前田さんからガイドラインがないというお話もありました。その次の研究体制の話もあり、いろいろなご意見もでていましたが、IoT住宅、次世代住宅はやってみないとわからないという段階だと思います。

 今日シンポジウムで登壇している方々も、悩みながら試行錯誤されていることが報告されました。やってみないとわからないこともありますし、やってみてわかってそれで対応できるということもあるかと思います。だからこそ国土交通省としても、応援していこうということで取り組んでいます。

 また、対象が住宅ですので、それぞれその家で暮らされる住まい手の方の生活もいろいろあります。テーマもさまざまで、解釈もいろいろあるのだと思います。いろんなテーマで手を挙げていただけると思いますし、提案をしていただけたらと考えています。

 この分野は、大手事業者ばかりではなく、きめ細かく対応し、アフターフォローをしっかりできるということでは、地域密着で取り組まれている地域工務店の役割も大きい。事業規模の大小に関わらず、それぞれ自分たちの特性にあった形で新しい取り組み、新しいサービスを提案して頂きたい。

 結局何をやるかがいちばん大事ですので、お客様に気づきを与えられるようなサービス、取り組みをぜひ提案・実証していただけたらと思っています。

 本事業は、2018年度も継続して実施いたします。よろしくお願いします。

それでは最後にみなさん、一言ずつ今後の展開についてお話ください。

ZEH推進協議会の小山貴史氏
(写真:都築雅人)

小山(ZEH推進協議会):先導事業ということで、私たちは、いま考えられるIoT技術を多く盛り込み、いろんなことができますと提案しました。ただ、実際のお客様のニーズは多様で、防犯が必要な住まい手、見守りが必要な住まい手…とそれぞれの家族によって違うはずです。

 今後、担当する建築士がどんなことをできるのかをきちんと習熟して、お客様のライフスタイル、暮らしのニーズに合わせた提案を適切にできるスキルを、ビルダーの仲間と勉強していきたいと思っています。

池澤:スマートハウス、IoT住宅(言葉は変化していますが)という考え方はずっと前からあり、体制がないから販売ができない、販売しないから体制ができないという「卵が先か鶏が先か」の議論がずっとありました。今回、この先導事業の採択を受けましたので、体制を整えて進めていくことができるようになりました。たいへんありがたい機会をいただきました。この機会を捉えて、しっかりと取り組んでいきたいと考えています。

我山:私どもは分譲マンションの事業者ですが、「マンションはオートロックで安心、安全、部外者は外から入れない」ということを固定概念としてきました。ここを変えていくのはかなりハードルは高くて、社はもちろん管理会社とも、相当な議論がありました。

 新たな取り組みとして第一歩を踏み出すのはなかなか難しいことですが、今回の技術検証を本事業によって取り組み、事業期間の3年間実証データを取得していきます。次世代住宅といえるものに、一歩一歩着実に取り組んでいきたいという心構えでいます。

前田:先ほど自立支援の話がありましたが、私どもの介護施設ではすでにエビデンスとして、重症化予防や寝たきり期間が著しく短くできたという実績があります。これを住宅で試みたとき、きちんと同様の効果が得られるか。こういった証拠、エビデンスが必要かと思います。この先導事業で、エビデンスを大学・研究機関の協力も得て実証していきたいと思います。

LIXILの山本徹氏
(写真:都築雅人)

山本:当社は、建材メーカーとして、実証実験を通じて、建材との連動など、いろいろ研究を進めてようやく商品化に結びつけることができました。その、まさによいタイミングで実証事業に採択していただきました。この機会を活用して、普及に向けての課題の把握など、取り組んで行きたいと考えています。

池本さんと一色先生からも一言いただけますか。

池本:IoT機器と住宅部分について、供給者としてどういう線引きをするのか、という議論がありました。この点について私は、既存住宅や賃貸住宅への汎用性を考え、IoT機器をあとから付加できる家という観点を磨き込むことで、IoTに対応しやすい住宅のハコが明確になると思います。

 たとえば、リノベーションでは、あえて配線などを全部外に出して、見えることを前提とし、それが逆にデザインとして受け入れられていたりします。住まい手が自由にIoT機器をDIYで設置する可能性もありえます。IoT機器の設置の創意工夫が、不動産市場において価値を生んでいくことになれば、一気に拡大すると思っています。

 新築時に全ての機能を備えなければならない、ということに囚われず、暮らしながら付け加えていけるような次世代住宅のアイデアがあればよいと考えます。

一色:住宅をつくっている方々だからできる、「人を幸せにするスマートハウス、次世代住宅」をぜひ考えていただければと期待しています。

まとめの言葉をいただきました。以上をもちましてパネルディスカッションを終了とさせていただきます。ありがとうございました。

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