日経BP総研と日経アーキテクチュア、日経ホームビルダーは「次世代住宅シンポジウム」を2月28日に開催した。ここで、米国ラスベガスで1月に開催されたCES2018について、日経BP総研の菊池隆裕上席研究員が報告した。菊池上席研究員は、日経BP社の記者としてインターネットやIoT技術について取材してきた。その知見を元に、CES2018に展示された最新技術が住宅に与える影響についてリポートした。

日経BP総研の菊池隆裕上席研究員(写真:都築雅人)
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 私の方からは、今、住宅まわりの製品やサービスが、おそらく世界で一番集まっていると思われるCES2018の様子を紹介しながら、インターネットの文化とはどういったもので、それが今、住宅まわりにどう影響しているかという点についてお話ししていきたいと思います。

 この展示会は、毎年1月にラスベガスで開催されている、技術専門展示会です。1月上旬に開催されることもあり、毎年、その年の技術トレンドを手っ取り早く把握できるイベントとして人気を集めています。

 主催者は「もうエレクトロニクスの展示会とは呼ばないでくれ」と言っています。団体の名称も「コンシューマー・エレクトロニクス・アソシエーション」から「コンシューマー・テクノロジー・アソシエーション」と名前が変わり、コンシューマー(消費者)向け技術を網羅的に扱う展示会になりました。カバーしている範囲は、スマートホームのほか、自動車、ドローン、3Dプリンターなど幅広く扱っています。

 その中には「Startup(スタートアップ)(※)」専門のコーナーもあります。ここ数年、「この展示会は、スタートアップの展示会じゃないか?」と思うくらい、若い会社、設立間もない会社がよく見られる展示会になっています。

※Startup(スタートアップ):これまでにないイノベーションや新しいビジネスモデルを開発し、短期間に急成長を目指す企業。

 全体で、約3900社の出展企業のうち、4分の1くらいはスタートアップだと思います。以前は大手の展示を、皆、注目していたのですが、最近は、スタートアップが打ち出す商品に注目が集まっています。

ものづくりのロングテール化

 展示会を見て考えたのは、「ものづくりにおいても、インターネットの世界で言われる、小さいマーケット、ニッチなマーケットをどんどん拾って製品化する、というロングテールの流れがきたな」ということです。

 「ものづくりのロングテール」。これは、いいキーワードだと思ったのですが、ちょっと調べてみると、別の方が既に提唱していました。WIREDというアメリカの雑誌の編集長で、クリス・アンダーソンという人がいます。彼は、インターネットの「ロングテール」という言葉を使い始めた人で、後に「ものづくりもロングテール化する」という事を、6年前から予想していました。

ロングテールを示す図
(資料:菊池隆裕)
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 ロングテールと言うのは、この図にあるようなグラフを、恐竜の姿に見立て、高い需要を示す部分が頭、小さい需要を示す部分が長い尻尾のように見えることから、使われ始めた言葉です。従来、マーケットの中心は、この頭の部分、スマートフォンとか、テレビとかパソコンみたいな、どの家庭でも「持っていて当たり前」といわれるものでした。しかしロングテールの時代では、ひとつひとつの製品の売上げは小さなものでも、細かい需要に応えていくことで、長い尾のような広範なマーケットが成立すると考えられています。

 例えば、パーキンソン病の患者の手の震えを吸収して、患者自身が食事を取れるようにするスプーンがありました。このような商品というのは、大手メーカーでは手を出しにくいものです。こういった細かいニーズに応えてくれるような、そんな製品が、ここ数年たくさん出てきています。

ものづくりの分業化を示す図
(資料:菊池隆裕)
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 この背景にあるのは、ものづくりの分業化が進んでいるという実態です。以前は、この図の左側にあるように、資金力があって、長年のノウハウが蓄積されていて、生産工場があり、新しい企画を従業員が考える、これをすべてパッケージされたものがメーカーでした。

 しかし今は、これらがすべて分業化されつつあります。企画の部分はスタートアップの会社が担っていますし、製造は中国の生産請負会社があります。資金とかノウハウはVC(ベンチャーキャピタル)が持っている。商品は、インターネットを経由して世界中に販売できる。いわゆる「メーカー」と呼ばれる会社でなくても、個人に近いような組織でもものづくりが出来るわけです。

 この時代に何が大事かと言うと、図の一番上に示した企画の部分です。「社会のどこに問題があって、それをどう解決し、実現していくか」といった企画の部分がとても大事になっていて、そこがブレていると世の中に広がらない。逆に、細かいニーズであっても、「的確なものを出していれば世界中に届けられる」と、そんな時代になっています。

CES2018でも注目されるAI

 このシンポジウムでは、「IoT」というキーワードが用いられていますが、IoTと並んで注目すべきなのが「AI」(人工知能)です。なぜ、AIに注目すべきかと言うと、IoTの時代になると、世界中のあらゆるところにたくさんのセンサーが置かれて、そこから大量のデータが入ってくることになります。それはもう人間が処理できる量を超えています。そうすると、それを解析して、どのようにプラスの価値に変えていくか、というところで、AIの力を借りるほかない訳です。

 CES2018でも、AIは注目するべき技術のひとつとされていまして、主催者が注目している領域として、音声認識や自動車に加え、AIが挙げられています。去年から、この展示会で存在感を現わしているのが、「AI技術を使ったスピーカー」です。会場でも筒状のAIスピ―カーが、あちこちに設置されていました。

 この技術の先にあるものは、感情分析です。声を拾って、その調子から「喜んでいるのか」「悲しんでいるのか」「怒っているのか」といった感情の分析が進んでいます。

 しかし、技術者による今年の評価としては、「AIの活用は、まだ始まったばかり」「単一タスクが多い」といった声が聞こえています。「個々の情報を総合的に結び付けて、より人間が感じているものに近づけて理解する」部分がまだできていないな、という評価です。

CES2018で見られた住宅関連技術

 CES2018での、住宅関係の展示についてお話します。まず、展示のスケールですが、ラスベガス市内に3カ所ある展示会場の1つに、住宅関係の展示ホールがありました。2階建ての建物の1フロアの一部が住宅関係の展示となっており、100を超える企業が、住宅に関係する製品とサービスを展示していました。

CES2018における展示の様子
「セキュリティ」「モニタリング」「オートメーション」のほか「SleepTech」とよばれる睡眠介入技術などが目をひいた(資料:菊池隆裕)
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 コンシューマー向けの技術としては、「セキュリティ」「モニタリング」「オートメーション」といった技術のほか、「睡眠をどう快適にするか」というような介入サービスの展示がありました。この「SleepTech」と呼ばれる技術は、去年からとても盛り上がっているジャンルです。

CES2018における展示の様子
住宅に関係するBtoBの技術(資料:菊池隆裕)
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 一方、住宅関係者向けの技術としては、「水漏れ検知」サービスの展示が多くあり、目をひきました。例えば、水道の一部に組み込んだセンサーとスマートフォンを用いて、水漏れの危険度を数値化し、閾値を超えるとメッセージングサービスなどを通じて返してくれるサービス。あるいは、配管部が緩み始めると、自動的に締め直してくれる製品などです。

 この他、作業員が転んだ状態を可視化してくれる靴とか、スマートフォンに装着することで壁の内部を可視化してくれるデバイス。テレビ会議室を利用したような、遠隔メンテナンス技術などが見られました。

インターネット企業が住宅業界に流入

ネット企業から見た時のスマートハウスを示す図
(資料:菊池隆裕)
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 「ネット企業から住宅がどのように見えているのか」を、上の図に示してみました。

 インターネットが出始めてきた時、Yahooが世界中のWebサイトを分類して、分かりやすくディレクトリ化しました。その後、Googleが検索サービスを始めて、Amazonがショッピング、TwitterやFacebookがソーシャルネットワークをつくりました。インターネット上に取り込まれる情報が、Webサイトから検索キーワード、買い物情報、ソーシャルなやりとりと徐々に増えてきました。そして今、リアル社会にインターネットが入り込んでいます。このようにリアル社会とインターネットが繋がる世界、いわゆるIoT住宅と呼ばれる「次世代住宅」は、この領域に入るものです。さらにこの先、AIによる感情分析が進んでくると、「人間の内面的な部分も、インターネットの中にデータとして蓄えるようになる」という可能性も考えられます。

 Googleは検索キーワードを基に、ユーザーが何を考えているのかを推測して、それに応じたサービスを提供しています。その後、Facebookは「ユーザー同士の会話」を判断し、それを基に適切な情報を提供します。ネット企業としては、自宅における個人の活動や人間の内面的なところを見る場所として、住宅に注目しているのでしょう。

 次世代住宅には今、オープンの波がやってきています。「こんなものがあったらいいな」と思ったら、今は、ユーザー自身がメーカーに立場を変えて、欲しいものを提供する側になれる。つまり「作りたい人が作る」という時代になっているといえます。私は、これがオープンな世界の特徴だと考えています。

CES2018での「TiNK」の展示と、これを利用した「merchari」の展示
(資料:菊池隆裕)
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 例として、スマートロックTiNK(ティンク)を開発するtsumug(ツムグ)というスタートアップ企業の取り組みを紹介します。同社には、インターネットに詳しい人たちが参加していて、ネット企業的な活動をみることができます。例えば同社は、アパマンと組んで賃貸物件のカギ管理を効率化しようとしていますが、他社が同様のシステムやさらに付加価値をつけたサービスをほかの不動産管理会社に販売することを推奨しています。

 さらに同社はDVK(DeveloperVersionKit)と呼ばれるサービス開発用のキットを他社にも提供しており、他社がこのDVKを使って、自由にサービスをつくることができます。メルカリによる自転車シェアリングサービス「merchari」でも、この仕組みが使われています。「扉のオンオフ」に同社のコア技術があり、そのコア技術は他社が住宅領域に限らず使うことが出来ます。

 こういったオープンな流れが、住宅業界以外の開発者やサービス提供事業者を呼び込み、思いもよらない新しいサービスを生み出すかもしれません。話題のAIスピーカーも、「タクシー」「金融」「旅行」などの事業者を、これまで以上に住宅内に呼び込むことを促しています。インターネットは、国境や法人・個人、アマ・プロなどの様々な垣根をなくしてきました。インターネットによる異業種の参入が、器としての「住宅」の概念を、近い将来、大きく変えていくことでしょう。

 大きな変化を迎える住宅業界の今後を、私も注意深く見守っていきたいと思っています。