日経BP総研と日経アーキテクチュア、日経ホームビルダーは「次世代住宅シンポジウム」を2月28日に開催した。基調講演では神奈川工科大学の一色正男教授が登壇した。一色氏は、経済産業がHEMSの標準インターフェイスとしてECHONET Liteを推奨することを決める経緯にかかわっており、当時の経緯とその意義を解説した。さらに、現在取り組んでいるECHONET Lite機器間の相互接続試験や、大学で研究している「人を幸せにするIoTスマートハウス」のコンセプトなどについて語った。

神奈川工科大学教授 一色正男氏(写真:都築雅人)
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 本日は、スマートハウスの歴史的なところと、現在、大学で行っているIoTスマートハウスの研究についてお話しようと思います。

 2011年3月11日に東日本大震災が起こって、その影響から夏に電力不足が発生しました。「電気が足りない」という事態を日本が経験したことで、2012年の夏に向けて省エネ・節電を推進するための論議が始まりました。

 2011年の8月に、経済産業省から参加を求められたのが、「スマートハウス標準化検討会」です。標準化検討会の中に「HEMSタスクフォース」と「スマートメータータスクフォース」というものができました。私はそこで、全体の副座長と、HEMSタスクフォースの座長を務めさせていただきました。

 標準化検討会は、かつてないくらいの大きな会議で、500位の団体の中から代表的な団体企業を選抜して会議に挑みました。企業を越えた横断的な論議をした上で、統一した規格で各々のエネルギー機器が繋がるようにしないと、2012年の夏に省エネ化が達成できません。間に合わせるためには、2012年の1月、せめて2月にはある程度のことを決める必要がありました。会議が始まったのが2011年の11月ですから、「3か月で将来困らないように決めるべきことは決めて進める」というわけです。まさに、日本が沸騰していたような時期に、そんな会議をさせていただきました。

 スマートハウスについては、まず省エネ化が求められました。「電気が足りなくならないための技術に取り組もう」ということで、「省エネのためにまず貢献しましょう」ということでスタートしました。

 当時、省エネといったら、家電機器をすべて省エネにする。電気やガス、水について使う量を少なくする方向で、一生懸命取り組んだ家電を並べることでした。ところが、現在の住宅を見ると、実はもうだいぶ違っています。

 一番大きく違ったのは、結構な数の家に太陽光発電がついていて、家でも電気を創れるということです。これは大きな違いですね。それを「創エネ」と呼んでいます。太陽光発電は、畜電池も設置した方が使いやすくなります。そこで、省エネの考え方には、電気を使わないだけではなく、創エネしてためておくという考えも加わります。電気のつくり方や使い方がすごく変わる時代にちょうど入っていました。

 こうした事情があって、これらを上手に使う技術としてICTを使おうという考え方の元、HEMSという技術が登場します。そういう意味では、「太陽光と蓄電池とHEMSがパックになった住宅」というのが、「スマートハウス」のスタートだといえます。

スマートハウス構想に、ICTの活用が必要とされた経緯を示す図
(資料:一色正男)
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 スマートハウス標準化検討会では何を議論したのか、というと2つあります。

 まず、HEMSタスクフォースで考えたことは、例えば、各社の電気設備を、HEMSというシステムにつなぐ時、「このインターフェイスが各社バラバラでは困るので、ここに標準語を用意しましょう」という議論でした。

 次に、スマートメータータスクフォースによる、スマートメーターの標準化です。日本には10社、電力会社がありまして、みんな自分のベストな仕組みをつくりますので、HEMSにつなごうとしても、各社みんな仕組みが違う。「これを全部そろえなさい」という論議をしました。

 議論は多岐にわたるものでしたが、結果としては、そろえる方向で進みました。では、「どのようにそろえようか」という議論になるわけですが、HEMSと家電機器・住設機器・エネルギー機器など、様々なものつなぐ時に、「サービス」と「ネットワーク層」というものがありまして、簡単に言うと、この二つがそろっていないと駄目です。

通信とサービスのつながりを示した図
(資料:経済産業省スマートハウス標準化検討委員会 中間取りまとめ(案))
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 図の下の方に、通信層・ネットワーク層があります。それから、上の方にサービスがあります。真ん中にプロトコルとコマンドがあります。このようにして通信とサービスがつながるのですが、会議では「これをひとつにそろえましょう」という議論が行われました。

 最初に議論したのは、ネットワーク層についてです。個別の家電に合わせた独自の通信というのは、実は既に7~8種類あったのですが、議論の結果、まず、IPを使うことでまとまりました。IPとは、何かというと、インターネットプロトコルというもので、実はIoTのことです。「インターネットプロトコルが使えるようにしましょう」というのが、最初の議論でした。

 これが決定した途端、日本は世界に先駆けて、すべての機器がInternet of Thingsになりました。この時から日本では、「いろいろなものをインターネットプロトコルでつなぐ」という時代が始まったわけです。

 次に、サービスの議論が始まるのですが、「インターネットプロトコルにするよ」と決まった途端に、今まで反対していた人達が「じゃあ、サービスはクラウドサービスを使えばいいのではないか」「それなら任せてください」と言い出しまして、この辺はすんなり決まりました。

 ただ問題は「どうやってプロトコルとコマンドをつくるか」ということでして、これは結構難しいのです。ここには特別なやり取りの仕組みが必要なので、「これをどうするか」ということも議論しました。

 結論として、2012年の2月に、「ECHONET Liteという規格をHEMSにおける標準インターフェイスに推奨しましょう」と決めて、公表しました。

 何と言ってもすごいのは、ECHONET Liteはオープンとなっている点です。オープンとは、世界中どこの国からでもダウンロードできて、自由に使うことができるということです。これは、非常に大きなことです。

 現在では、アジア各地で使われ始めています。ISO/IEC規格としても番号登録されているので、国際規格です。すなわち、皆さんの住宅にこれを付けて、アジアとかヨーロッパに持って行くと、そのまま使えます。日本は国際規格になっている規格をベースに、住宅の家電機器とか、いろいろな機器を全部コントロールできるのです。こんな国は世界中に日本しかありません。

 現在、国内の家電では、約100機種。数で約1000万台。エアコンはほとんど全て、スマートメーターは約3000万台、もう既にECHONET Liteの規格が実装されています。これは、インフラなのです。日本は、IoTのインフラ整備を5年前から行って、今、しっかり準備されているということです。

 さぁ、これを知った後は、皆さまの仕事です。これから先どうやって行くか、ということをぜひ考えていただければと思います。

スマートハウスの普及促進のために

 次に、私の所属する大学が持っている、HEMS認証支援センターの活動をご紹介します。今までは、物をつくる技術者の人達が多く来たのですが、そろそろ、住宅の方々にも来ていただいて、ぜひ、今の状況を見ていただきたいと思います。

HEMSの認証支援センターのホームページ
http://sh-center.org/shrepo/visit(資料:一色正男)
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 このHEMSの認証支援センターというのは、先ほど言いました、標準化のためのいろいろな設備をつくっております。特に、ECHONET Liteという規格で統一したのは良いのですが、「本当にそれは相互接続性が可能であるのか?」という検証が必要になります。そのため、様々な会社が出したECHONET-Lite機器を数多く並べて置いて、本当にOKかどうかをチェックする訳です。

HEMSの認証支援センターの様子
(資料:一色正男)
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 写真にありますように、現在12台のエアコンが同時に動く設備になっています。照明や分電盤などもあります。それから、各電力会社のスマートメーターが置いてあります。これは、日本に唯一の場所になっていて、ここに来ると、各電力会社のスマートメーターが、全部同時に試験できるというものになっています。

 「スマートハウスの技術を勉強してもらいたい」という考えから、教科書もつくりました。「スマートマスター」という教科書で、もうすぐ2018年度版が出ます。試験もありますので挑戦してみてください。家電製品協会様が運営しており、私も本事業をご支援させていただいております。

 スマートマスターを何のためにつくったかと言いますと、実は、住宅メーカーのためでもあります。現場でスマートハウスを売る時に、「販売員が良く分かっていない」「聞かれても困る」という話しをよく耳にしまして、「そういう方々が困らないように教科書をつくろう」、というのがスタートでした。

 「スマートマスターがいるお店」という旗もつくりました。試験に合格するとその旗が貰えます。その旗をモデルルームなどに置いておくと、「いろいろなスマートハウスを売ることもできる」というような仕組みになっていますので、関心をもっていただけると嬉しく思います。

 私が大学で行っている研究をいくつか紹介いたします。まず、中小工務店向けに、「RaspberryPi」という、8000円位の小型PCにプログラムを入れると、ごく簡単に、エアコンが動いたりするソフトを用意しました。スマートハウスの技術は、住宅会社が自分でつくるのは難しい面があると思います。これはお試し版として、簡単なものにはなりますが、工務店がトライアルするには、最適かと思います。

「人を幸せにするIoTスマートハウス」のコンセプト図
(資料:一色正男)
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 この図は、「人を幸せにするIoTスマートハウス」というコンセプトを現わしたものです。これは、私が皆さんと実現したいと思っている、未来のことのひとつです。今、スマートハウスの普及率は1%以下ですが、これから10%の時代が来るだろう。少なくとも30%くらいまでは、たぶん進んでいくのではないかと思います。

 そうすると、隣の家、または息子の家と祖父の家が、HEMSでつながる時代が来るだろうと。この時に何をするか、というのがこの議論です。

 例えば「おじいちゃんは朝、電気を付けてトイレに行って、帰って来てコーヒーメーカーを使いました」というデータがあると、おじいちゃんはいつもの通り6時に起きたから、「元気良さそうね」と、こういうことがわかる。

 「元気だよ」という印を「きずな情報」と呼んで、それを息子の家に送ります。息子の家はいろいろな機器があるので、例えば、キッチンの照明を少し青くして「元気だよ」と知らせる。

 直接電話をするわけでもなく、何をするわけでもないのですが、HEMSが「元気だよ」というのを、息子の家のHEMSに伝えるという仕組みです。こうしたやり取りによって、おじいさんの生活の影が、息子の家に伝わる。

 これは当たり前のことで、昔、障子の向こう側をおじいさんが、トイレに歩いて行くのを見て、「今日も元気そうだ」と感じたのと同じ、人の影を伝え合う時代が、このHEMSでできるかもしれない。これは住宅にとって、「本質的な生活者の助けになるものじゃないかな」と思っていまして、人と人の絆を助けられる技術となる可能性に期待しています。

3D仮想空間を用いたスマートハウスコントローラの研究事例
(資料:一色正男)
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 もう一方の試みとして、考えられているのがバーチャル住宅。この図に示した研究事例では、まず現実の住宅があり、それと同じ空間をバーチャルでつくっております。バーチャル空間にはCGの女の子が表示されており、これを操作します。女の子が歩いて行って照明のそばに行き、バーチャル空間の照明をオンにすると、現実の住宅でも照明がオンになる仕組みです。

 例えば、離れた所に住む、おばあちゃんの家から電話がかかってきて、「エアコンの温度を変えて」と言われたら、このバーチャル空間をCGの女の子が歩いて行ってエアコンの温度を変えてあげる。

 住宅会社の方々は、住宅を売る時に、すでに住宅空間を表現するデータを持っておられますから、「そこにこれを組み合わせたら、素敵なリモコンがつくれるのではないか」と考えています。

 最後に、今日お話ししている中身は、「すべてオープンな技術でつくられている」という点が重要です。ECHONET Liteも、ウェブもオープンです。

 オープンであるが故に、培った技術や、つくり上げたサービスは、あらゆる場面でそのまま使えます。経験したことは無駄になりません。この新しいプラットフォームは、皆さんのビジネスの次につながるものと信じております。

 いっしょに次世代住宅をつくっていきましょう。