伊本貴士
メディアスケッチ代表取締役 兼 コーデセブン CTO、サイバー大学客員講師

 「炎上案件」と呼ばれるものがIT業界にはあります。炎上案件とは、大きなトラブルが発生し、円滑な業務遂行が不可能な状態に陥って、関係者が残業続きの状態になったり、場合によっては顧客との料金返金などの交渉や裁判などが発生したりしている案件のことをいいます。「デスマーチ(死の行進)」と呼ばれることもあります。

 本来、炎上案件は発生してはいけないものです。しかし残念ながら、IT業界では頻発しています。製造業をはじめ、他の業界では信じ難いかもしれませんが、IT業界では決して珍しい話ではありません。特に大規模な案件ほど発生しやすい傾向にあります。

 例えば、難航しているプロジェクトとして有名なものに、みずほ銀行のシステム統合プロジェクトや、仮想通貨取引所を運営するコインチェック(東京)の仮想通貨流出問題などがあります。

 開発の進捗問題や、プログラムのバグや脆弱性の問題など、炎上の原因はさまざまです。IT業界にとって、「炎上をいかに防ぐか」という問題は永遠の課題であり、プロジェクトマネジメントにおいても最も重要な仕事といえます。

炎上案件に配属されてしまったとき、何をすべきか

 一般に、本当に優秀なエンジニアほど炎上案件を担当させられる可能性が高いと思います。企業にとって炎上案件は大きな損失につながり、信頼低下を招きます。最優先で何とかしなければなりません。従って、必然的に最も優秀な人間に白羽の矢が立ちます。そのため、他の順調なプロジェクトから引き剥がしてでも、最も優秀な人間を派遣し、一刻も早い沈静化を図ろうとするのです。

 特に、重宝されるのが、さまざまな分野の知識に精通している人間です。いろんな視点からトラブルを見極める力があるからです。ところが、本人にとってはこれほど迷惑なことはありません。他人が引き起こしたトラブルを押し付けられるのですから。実際、私の場合も非常に嫌でしたが、仕事でもあり、実際に困っている人がいるので何とかしなければならないと思い、炎上案件の処理に当たっていました。

 念のために言っておきますが、炎上案件には関わらないことが一番です。体力は消耗するし、関係者はみんなイライラしています。関わると本当にロクなことはありません。

 しかし、自分が炎上案件に関わることになってしまっても、悲観し過ぎることはありません。炎上案件には学ぶことがたくさんあるからです。学んだことを自分のものとし、自分が上に立つときには、同じ失敗を起こさないようにする──。そうした考えを持つことが重要です。

 長いエンジニア人生において思い通りになる案件など、ほとんどありません。順調そうに思えるプロジェクトでも、顧客都合の仕様変更やさまざまな困難はつきものです。そのためエンジニアには、逆境を力に変えることが必要になります。置かれた状況に悲観し過ぎる人はエンジニアとして続きません。

 「逆境を力に変える力」を持つことができれば、仕事だけではなく、人生において大いに役立つことでしょう。