目が見えない人はどうやって空間を認識し、頭の中でどのような「像」を描いているのだろうか──。こうした問題意識から始まったプロジェクトがある。「echo(エコー)」だ。

 集まったメンバーは、暗闇の中での視覚に頼らない対話体験を提供する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の檜山晃氏。リオデジャネイロ五輪の閉会式で、次回の東京五輪をアピールする演出の技術を手がけたRhizomatiks Research(ライゾマティクスリサーチ)の真鍋大度氏と石橋素氏。そしてファションブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」のデザイナーである森永邦彦氏らである。

 彼らが参加するechoでは暗闇での空間認識を理解するため、「新しい身体器官」としての服を開発している。服がレーザーの信号を発して物体との距離を計測し、その反応が「振動」として返ってくる。こうして視覚ではなく、服で空間を知覚するという世界初の検証を続けている。echoでは、目とは異なる感覚で空間を「みる」という新たな体験ができる。

 プロジェクトは2017年5月に始まり、同10月にヨコハマ・パラトリエンナーレ2017でバージョン1の「echo wear」を発表。その後、2018年7月に全面改良したバージョン2を公開した。東京・お台場にある日本科学未来館では7月5~8日の4日間、新しいecho wearの体験型展示が行われた。

 人の五感とITの関係に以前から興味がある筆者は初日に早速、まさにウエアラブルそのものであるecho wearを日本科学未来館で試してきた。そこにはこれまで味わったことがない、驚きの世界が広がっていた。

黒いecho wearを着た筆者。目隠しをして、決められたコースを1周する。服がレーザーで筆者の周囲にある物体を検知すると、腰骨部分が振動する
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 echo wearを着たときの感じ方は、人それぞれだろう。ここでは筆者自身の体験とともに、開発メンバーらによる解説から、ウエアラブルとしての服を用いた新しい知覚について考えてみよう。

センサーと振動子で空間内の物体を認識

 echo wearには服の前と後ろに「距離センサー」が付いている。

服の前方に取り付けられた「距離センサー」(赤丸の部分)。初代のecho wearより、かなり小型になった
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服の背中にある距離センサー(赤丸の部分)。服の模様に見える白い線には電子制御回路基板や振動子をつなぐ配線が通っている
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 また、全身に3つの「振動子」と3つの「振動板」を備える。それらを配線でつなぎ、ライゾマティクスリサーチが開発した背中の電子制御回路で、センサーでとらえた物体との距離を振動の情報に変換。震えの強弱で人に物体との距離を伝える。振動子は人が最も震えを感じやすいと分かった腰骨部分に取り付けてある。

背中の中央にある基板の内部。ライゾマティクスリサーチが開発した
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 echo wearは服自体が常に、目には見えない信号を発し続けている。信号が空間内にある物体に当たり、こだまのように反響が服に返ってきて、そこで振動に変換される。イルカやこうもりは視覚以外の特殊な能力で空間や仲間、獲物を認識している。それらに似た原理といえる。

 視覚ではなく、振動という「触覚」で空間を認識したとき、「私たちの世界や都市はどう更新されていくのか」。今や世界的にその名を知られる存在になった、ライゾマティクスリサーチのエンジニアである真鍋氏は、我々にそう問いかける。

ライゾマティクスリサーチの真鍋大度氏。3人組の歌手グループ「Perfume(パフューム)」のライブ演出などでも知られる著名なエンジニアであり、メディア・アーティスト。DJとして音楽活動もしている。最近では米アップルのパソコン「Mac」の広告にも登場して話題になっている
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