定年が延長され、「75歳まで働くのが普通になる」といった言葉も聞かれます。それならば、年齢に関係なくできる仕事に早めに就いておきたい。そう考える人が増えています。

 今回は、ある技術者が6年かけて司法試験に挑んだ話を紹介します。

仕事を辞めるつもりだったが、思いとどまる

 その技術者は、素材メーカー勤務の武本さん(仮名)。上場企業で技術者として働きながら、51歳で見事司法試験に合格しました。

 バブル時代に大学を卒業して就職した武本さん。その頃と比較して、日本企業の世界的地位が危うくなっているのを肌で感じています。リコールなどによって自社のブランドも揺らぎ、「この先どうしよう」と危機感を募らせたのが45歳のときでした。

 その頃は、世間的に法科大学院が注目されていた時代。「どうせ勉強するなら今とは違う畑で、難しく価値の高いものにチャレンジしたい」と考え、司法試験合格を目標に据えました。

 社会人が難易度の高い資格取得に挑む場合、まず「仕事を辞めるか、続けるか」が問題になります。武本さんの場合は、受験を思い立った時点では会社を辞めるつもりでした。勤続年数も20年を超え、退職金もそれなりに入ります。その退職金で生活を続けながら学校に通った方が勉強に集中できるし、仕事への悪影響も避けられると思ったからです。

 しかしその後、退職は思いとどまりました。家族の生活や住宅ローン、子供の学費のことを考えると、「会社を辞めるのはリスクが大きい」と思ったからです。結局、働きながら勉強することを決断しました。

 筆者としては、武本さんの決断は賢明だったと考えています。会社を辞めて資格取得に集中するのも1つの方法ですが、安心して勉強する上で生活基盤の安定は重要です。目標が明確であればこそまず生計を確保し、目標達成のための計画を立てて着実に準備することをお勧めします。

クラスメートから哀れみの視線

 とはいえ仕事を続ける場合、勉強との両立は容易ではありません。もともと勉強好きな武本さん、高校時代も往復3時間の自転車通勤をものともせずに学年トップの成績を収めていたほどで、司法試験もなんとかなるだろうと考えていました。

 しかし実際に法科大学院に行き始めると、現実はそんなに甘くはありませんでした。働きながらですから、通勤中や昼休みなどのすきま時間と帰宅後にしか勉強できません。徹夜をする日も続きました。

 苦労を分かち合う仲間がいれば励みになるものですが、それもかないません。学校には年齢が2回り下の学生たちばかりで、同世代は発見できません。クラスメートには気さくに話しかけてくる学生もいるのですが、「社会人になって45歳を過ぎて、こんなふうになるのは大変だなあ」と哀れみの視線も感じます。ちょっと悲しくなることもあったといいます。