年齢と転職回数は、一般的に数字が大きくなるほど転職のハードルが上がるとされています。しかし中には、こうしたハードルを難なく乗り越えている人もいます。

 なぜ乗り越えられるのか、今回は、13回の転職経験者であるAさん(53歳)の事例から探っていきましょう。

 Aさんは地方の高校を卒業後、中堅私立大学の文系学部を卒業しました。その後、ある業界内で転職を重ねています。大手から中小まで、幅広い企業への転職を成功させています。

 Aさんは特別な資格や経歴を持っているわけではなく、びっくりするほどのハイスペック人材とは言えません。50代で転職回数は2桁、在職期間が短い企業もある。大手人材エージェントに登録すれば、ほぼ間違いなく担当には面倒がられるスペックです。

 ではなぜ、転職できるのか。先日、今度はベンチャー企業に転職が決まったと報告を受けたのを機に、会って近況を聞いてみました。

雑務をしながら、社長の相談相手に

 Aさんはその会社の法務部門に、課長職で入社しました。海外にも拠点があり、入社後すぐに現地に飛んで現地スタッフの慰労会を開きました。言葉は通じなくても、頑張って会を盛り上げたそうです。帰国後は同い年の社長と徹底討論しながら、来年度の事業戦略を作成。自分の担当範囲を超えてはいるが、自分以外の社員は20~30代なので、社長の相談相手になっている。そんな話をしてくれました。

 社内ルール作りにも取り組んでいると言います。ベンチャーのため就業規則などの整備が不十分で、自分で必要事項を調べて整理し、外部顧問とのすり合わせも実施。契約書のひな型もないため、専門知識を活用して作成・印刷した。取引先に書類を送る際は、自分でのり付け製本して郵便局に出しに行った。外部からかかってきた電話も自分が最初に取るし、宅配便や郵便物も受け取る――。こうした仕事に、特に不満も抱かずに取り組んでいる様子がうかがえました。

 この会話を通じて、私はいくつか気付いたことがありました。まず、Aさんが細かな作業や雑務を自らこなしていること。50歳を超えると、文書の印刷や製本、郵便局での発送作業などを面倒だと思う人も多いでしょう。しかしAさんは苦に感じず、当然だと思って作業しています。大手企業からベンチャーという小さな会社に転職した悲壮感もありません。ベテランになっても細々とした仕事をいとわず、前向きに取り組む姿勢こそが、転職を容易にしているのです。

 Aさんは同時に、年齢に見合うスキルや経験は積んでおり、社長の本当の右腕になれます。海外の現地スタッフをいたわる気遣いもでき、率先して社内ルールを整備する行動力もあります。この会社は、1人の中途採用で、新人がするような雑務ができ、中堅社員のような行動力を持ち、専門性もあるという3人分の人材を獲得できたわけです。私からすれば、この会社はとても良い買い物をしたものだと思います。