2018年6月5日、米アップル(Apple)のWWDC基調講演の中継動画が始まってから1時間が過ぎた頃だろうか、何度めかのあくびを我慢しながら、それでも「サプライズがあるかも」と半ば惰性でWebブラウザーの画面にうつろな視線を向けていた。そして、2時間を過ぎキーノートも最終盤に差し掛かろうとしていたそのとき、それはやってきた。筆者にとっての、サプライズであり「One more thing...」である。

キーノートの最後の最後で「One more thing…」があった。macOSにiOSのアプリの開発環境「UIKit」を取り入れiOSからmacOSへの移植環境を整えるという
(出所:アップル)
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 macOSとiOSのアプリの開発環境を統合するというのだ。いや、統合は言い過ぎかもしれない。部分融合とでもいうのだろうか。iOSアプリを開発している筆者は前のめりになって聞き入ってしまった。噂は半年前からあった。2017年12月にBloomburgがコードネーム「Marzipan」プロジェクトの存在をスクープした。WWDCキーノートを観た後でこの記事を読むと、曖昧な言い方をしている部分はあるものの「開発環境の共通化」という情報の核は看破しており、取材力の高さに驚かされる。

 今回の発表では、macOSの開発環境上にiOSのUIKitを乗せることで、iOSアプリをmacOSへ移植する際のハードルを下げることができるとしている。一部の開発者は、macOS上の開発において、先進的で扱いやすいUIKitが使えないことへの不満を募らせていただけに、まずはめでたしめでたしといったところだ。

 アップルとしては、ゲームアプリ移植への期待が大きいようだ。ビジネス的にもそれを期待するのは当然であろう。App Storeの総収益におけるゲームアプリのシェアは、一説には8割超えとも言われているだけに、胴元であるアップルが期待をかけるのもうなずける。ただ、すべてのゲームの移植に意味を見出させるかというと、それはない。当然ながら、ポケモンGOのようにモバイルでこそ真価を発揮するゲームもあるからだ。

ゲームだけでなく音楽アプリの移植にも有利

 実のところ筆者は、ゲームには興味がない人間なので、アップルが抱いているであろうゲームアプリの移植に関心はない。では、冒頭で書いたように、なぜmacOSとiOSの開発環境の部分融合に興味を持ったのであろうか。それは筆者が開発しているのが音楽系アプリだからである。

 音楽系アプリであれば、音楽制作ソフトウエア向けのAudio Unitsプラグインという形でiOSからmacOSに移植することができると考えたからだ。Audio Unitsというのは、Core AudioのAPIレイヤーにおいて中間層(Mid-Level)に位置するフレームワークであり、macOSの音楽ソフトウエア向けプラグインを開発することができる。Core AudioはオーディオやMIDIを処理するためのAPIであり、macOSとiOSで共通化されている。

Core AudioのAPIのアーキテクチャー。音声や映像を再生するAudio Queue ServicesなどよりDSP側に位置するレイヤーで動作する(Appleの開発者サイトを基に筆者作成)
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