世界に熱狂をもたらしている4年に1度のスポーツの祭典「サッカーW杯」(2018 FIFAワールドカップ)。今回のロシア大会に参加する32カ国の登録選手736人のうち、所属チームのリーグで最も多いのが124人のイングランドである。イングランドのトップに位置するプレミアリーグは現在、世界最高水準のプレーレベルを誇るとされている。

 そのプレミアリーグの強豪チーム「Tottenham Hotspur Football Club(トッテナム・ホットスパーFC)」が2018年内のオープンを目指してロンドン市内に建設中の最新スタジアムが、欧州のサッカー関係者のみならず、世界のスポーツビジネス関係者から大きな注目を集めている(図1)。

図1 トッテナム・ホットスパーFCの新スタジアムのイメージ
サッカーの試合だけでなく、米国のプロアメリカンフットボールリーグNFLがこのスタジアムで毎年公式戦を開催することを発表している。スタジアムにはビール醸造所やベーカリーなども設置される予定という(出所:HPEの資料から)
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 数万人もの人が同時にネットにアクセスして大量のデータを送受信したりするスタジアムは、テクノロジーの“実験場”だ。同時に、ITを基盤としてその上でファンに新たなサービスを提供して収益機会を拡大するための、ビジネスのトライアルの場でもある。

 約6万2000人を収容するトッテナムの新スタジアムは、満員の観衆がアクセスしても高速で“落ちない”Wi-Fi(無線LAN)など最新のITを装備する。さらに米プロアメリカンフットボールリーグのNFLと10年間のパートナーシップ契約を結び、アメフトの世界戦略の一貫として毎年、試合を開催する予定だ。そのためにサッカー用の天然芝とアメフト用の人工芝のピッチを短時間で切り替えられる設備を用意する。建設費は7億5000万ポンド(1090億4332万円)と見積もられている。

実効1Gビット/秒のデータ転送能力

 このスタジアムに導入する、高密度Wi-Fiなどネットワークインフラを担当したのが米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)である。同社が2015年に買収し、大型の公共施設向けにネットワーク制御システムなどを提供するアルバネットワークス(現Aruba, a Hewlett Packard Enterprise company)が、実際の導入を担当している。

図2 Aruba, a Hewlett Packard Enterprise company、Chief Technology Officer、Asia PacficのAmol Mitra氏(写真左)とVice President APACの Steve Wood氏(写真右)
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 アルバによると、新スタジアムのITインフラについてトッテナムからの要求は「通信品質の劣化は絶対に許されない」(同社 Chief Technology Officer、Asia PacficのAmol Mitra氏、図2)という厳しいものだった。具体的には大きく5つの要件があった。第1に通信速度、第2に「デッドスポット」を無くすこと、第3に通信データ量急増への対処、第4に位置情報サービスの導入、第5にセキュリティーの確保、である。

 第1の通信速度については、たとえ6万2000人が接続しても速度が低下しないWi-Fi接続環境の実現が求められた。「5年前なら試合中は携帯電話を使うよりはピッチに集中しようという認識が観客に強かったため、ネットにつながりさえすれば良かった。しかし現在では、スマートフォン(スマホ)を介したリアルタイムなコミュニケーションへの対応が必須の要件となった」(Mitra氏)。

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