今回は、大手メーカーに入社したものの自ら社外で開発プロジェクトを立ち上げた技術者の事例や、技術者を社会に送り出す役割を担う大学の取り組みを紹介する。

 技術者は、必ずしもメーカーなどの既存の組織に属する必要はない。起業するなどして自ら組織を作ることもできる。さらに発想を広げて、いい意味で大企業と「二股をかける」ことさえ可能だ。大手企業には資本や人材、信頼、ブランド力などがあり、その力を併せ持てば鬼に金棒の場合もある。大手メーカーに属しながら、個人の夢を実現しようと、80人の組織を立ち上げて率いている技術者の姿を紹介する。

「会長、10億円ください」

「会社を辞めて起業します。10億円を出資してもらえませんか」。勤務先の大手自動車メーカーの会長と副社長に、こう直談判した経験のある技術者が中村翼氏だ(図4)。会長と副社長からは慰留され、会社に在籍したまま“起業”することとなった。

図4 大企業に在籍しつつ2025年に発売目標の「空飛ぶクルマ」を開発中
大手自動車メーカーに在籍したまま「空飛ぶクルマ」の開発をするCARTIVATORの代表の中村氏とメンバー。支援者集めにも奔走する。(写真:CARTIVATOR)
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 同氏は、80人規模の有志組織CARTIVATORの代表を務める。「空飛ぶクルマ」を2025年に実用化し2050年に世界中に普及させるプロジェクトの実現を目標に掲げる。自動操縦によるシェア型電動ドローンを空飛ぶクルマに見立てて実用化し、3次元の交通網をめぐらした社会を生み出す狙いだ。

 この組織には、トヨタ自動車グループを中心とする15社が、2017年5月に4000万円超の資金支援を決めている。愛知県豊田市と東京都港区に開発拠点を置く注3)

注3)出資金は4250万円。3年間にわたって、資金の受け皿としてCARTIVATORが組成した一般社団法人に入る。豊田市の拠点は同市の支援、東京都内の拠点は富士通とテックショップジャパンの支援により設置した。

 中村氏は、2009年に入社した大手自動車メーカーに設計者として在籍しつつ、有志組織で技術者兼リーダーとして開発を続けている。小学生の時に技術者になることを決めていたほど、ものづくりが好きだったという。一方、リーダーシップの発揮にも関心があり、大学時代には自作自動車によるレーシングチームを率いた経験がある。

 卒業後には就職せず自動車メーカーの創業を検討したが、工場設備への投資の大きさを考えて、まずは自動車メーカーに就職する道を選んだ。自動車の開発責任者になれる可能性があり、そこから起業もできると考えたからだ。

 就職した後も、社内で設計業務に携わりながら、当初の夢を実現に移したいという思いは強く、勤務時間外に有志でカスタムメイドの自動車メーカーを立ち上げたいと検討するようになる。社外のビジネスコンテストで優勝した経験を経て、大きな夢が感じられる方向へ事業計画を膨らませて、現在の空飛ぶクルマの事業化にたどりついた。

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