パナソニックは2018年4月2日、IoT(インターネット・オブ・シングズ)商品開発のスタートアップ企業Cerevo(セレボ)の子会社Shiftall(シフトール)を買収した。Shiftallには、Cerevo元CEO(最高経営責任者)の岩佐琢磨氏ほか20数人の元Cerevo社員が所属する。スタートアップ企業が二つに分かれ、大企業が創業者を含めてその片方を買収するというスキームは珍しい。

 岩佐氏はもともとパナソニックで家電の商品企画に携わっていた人物だ。同社を辞めて、2008年にネット家電開発のCerevoを設立。ネット接続のデジタルカメラからHD映像のライブ配信機器、プロジェクター内蔵ホームロボット、センサー内蔵のIoTロードバイクまで、10年をかけて20種類を超えるIoT商品を開発し、世界70の国と地域に届けた。岩佐氏率いるShiftallは、パナソニックをどう変革するのか。Shiftallの岩佐CEOに聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経 xTECH/日経コンピュータ)


Shiftallをパナソニックが買収するという形で古巣に復帰した経緯を教えて下さい。

Shiftallの代表取締役CEOである岩佐琢磨氏
(写真:陶山 勉)
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 2017年夏ごろ、パナソニックのビジネスイノベーション本部から話がありました。「IoT家電のアジャイル生産」に必要なスキルセットがパナソニックにはなく、ぜひノウハウが欲しいので協力してくれないか、ということでした。

 もともとビジネスイノベーション本部の宮部さん(CTO、前本部長)、馬場さん(現本部長)とは知り合いで、その縁もありまして。正確には、宮部さんとは旧知の仲でしたが、馬場さんとは2017年3月にドイツで開催された国際見本市「CeBIT」の前後で、SAPジャパンの社員だったときに知り合いました。

*ビジネスイノベーション本部はパナソニックが2017年4月に新設した組織。設立当初の本部長は最高技術責任者(CTO)の宮部義幸氏。2018年4月からは元SAPジャパンで「Panasonic β」プロジェクトを率いる馬場渉氏が本部長を務める。

「Cerevoから新たな企業を切り出して買収する」というパナソニックの提案に対し、どのような議論がありましたか。

 スタートアップ企業を2つに分けて、一方を買収し、もう一方に対価を支払う。少なくとも国内では聞いたことがないスキームで、びっくりしました。

 心の中で葛藤はありました。僕はこれまでCerevoのCEOとして、Cerevoという会社を10年近くかけて大きくしてきました。それをやめて別のチャレンジをすることには、当然ながら後ろ髪を引かれる思いはあります。(創業者として)こんな選択肢を採っていいのか、ずいぶん悩みました。

 皆で議論し、スキームが固まり、最終的に「これでいこう!」と僕が決断したのはパナソニックから話があった半年後の2017年末です。

 Cerevoの社員から「これだけのメンバーがいれば、パナソニックに新しい血を注げる」と考えた20数名を選び、メンバーの合意をもらったうえで、新たに設立したShiftallに移籍してもらいました。Cerevo本体はパナソニックからShiftallの売却資金を得て、新たな挑戦ができます。

時計の針を10年ほど前に戻しますが、なぜパナソニックを退職して2008年にCerevoを設立したのでしょうか。

 「インターネットとハードウエアが融合した、Web2.0時代のネット家電」、今でいうIoT家電を作りたかった、というのが設立の動機です。

 IoT家電は、当時の市場としては極めてニッチでした。ただ当時はEMS(電子機器の受託生産サービス)の発達もあり、1つのハードウエアを数千個から作れる環境が整ってきました。この環境を生かし、IoT家電の多品種少量生産にチャレンジしたかったんです。

 2008年当時、まだIoTという言葉はありませんでした。「クラウド」という言葉も広まっていなかったですね。ただWeb2.0というキーワードとともに、もともとは手元のハードウエアが担っていた様々な機能がサーバーサイドにシフトしていました。

当時のパナソニックではIoT家電の開発はできなかった?

 僕が退職を決めた2007年秋当時、パナソニックは業績がV字回復して大黒字、まあイケイケだったんですよ。ビデオカメラが1モデル累計300万~400万台売れるような時代です。「インターネットと融合した家電を数千台作りたい」といっても聞いてもらえません。

2008年にCerevoを設立した後、当時の開発方針についてインタビューしました。ただ、その後は資金調達で苦労したと…。

 まさかその直後にリーマンショック(2008年9月)が来るとは予想できませんでした。その前後で資金調達の環境がガラリと変わりましたから。それでも1年かけて開発に必要な資金を調達し、2009年12月にネット接続のデジタルカメラ「CEREVO CAM」を販売しました。

 実際に製品を売ってみて分かったのは、UX(ユーザー体験)の違いや機能の違いで攻めるのは難しい、ということです。

 実はCerevoを設立した当時は、ニッチとは言っても「数万台レベルの量産」を目指していたんです。ですが、想定通りにはいきませんでした。しばらくは試行錯誤の時期が続きました。

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