黒い画面はインテリアの敵

 幅10センチほどの木のフレームに、ガラスの板が少し斜めにはめ込まれただけに見える、少し奥行きのあるシンプルな額縁。フレームの上部には、額縁の後ろに置くオブジェや写真などといった大切なものを美しく照らせるよう、照明が埋め込まれている。何の変哲も無い木とガラスからできたケースのようだが、電源を入れるとガラスから映像が浮かび上がって一転テレビへと変化する。

 ガラスに使われたのは、透過型有機EL。使わないときには可能な限り存在を消してインテリアの一部となり、必要な時だけ映像を映し出す。制御基板やエレクトロニクス関連部品は、木のフレームの中に隠し、テクノロジー性を一切見せない。そんなテレビを、vitraとパナソニックのデザイナー、そしてスウェーデンのデザイナー、ダニエル・ライバッケン氏の3者が共同開発した。

 開発の出発点となったのは、インテリアメーカーから見た従来のテレビに対する疑問だったという。「インテリアという視点から見ると、そもそも従来のテレビの『黒い画面』は、あらゆる部屋の雰囲気を台無しにする存在でしかない」というvitraやデザイナーからの問いかけから、本当にインテリアに溶け込むテレビを開発することにしたという。実際、欧州には自分たちの自慢のインテリアに合わないことを理由に、リビングにテレビを置かない家庭も存在する。vitraを始めとする多くのインテリアメーカーのカタログを見ても、そのコーディネート事例の中にテレビが置かれている例はまずない。イケアのような低価格帯のインテリアブランドのカタログでさえ、コーディネート写真のなかにテレビを見つけるのは難しいほどだ。

 これまでテレビは、映像の見易さや発色の美しさが重視されており、黒い背景と映し出す映像とのコントラスト比が高ければ高いほど良いとされていた。しかし、テレビの画面が大きくなる現在、その黒さが逆に普段の生活の中で目障りになる場合もある。映像に没入する必要のある映画鑑賞などには黒いスクリーンと高い画質は必要かもしれないが、それが、生活のあらゆる場面に必要かどうかはわからない。そんな疑問を提示した今回開発された透過ディスプレーを使ったテレビは、まだプロトタイプではあるものの、生活の中の映像のあり方を大きく変える存在になる可能性がある。

 また、このプロトタイプが与える影響がもう1つある。販売チャネルの変化だ。仮にこれが製品化されvitraを通じて販売されたとすると、販売ルートは、世界中にある彼らの直営店や彼らの商品を扱う高級インテリア店となる。そこで製品に求められるのは、生活の質をいかに高めてくれる魅力を持つかどうか。こうした売り場ではスペック競争や価格競争が起きにくい。日本の家電量販店で販売する商品のように、1年サイクルで製品をモデルチェンジするような慌ただしい開発の必要もなくなり、1つの技術を比較的な長いスパンで高い価値を保ったまま売り続けられる可能性が高まる。

電源を入れていない時は、お気に入りの小物を飾るガラスケースとして使えるほど、インテリアに溶け込む
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