なぜスリープテックか、背景にこんな「眠り」の効果が

2019/07/29 05:00
藤井 省吾=日経BP総研 副所長 メディカル・ヘルスラボ所長

 テクノロジー分野のイノベーションの中でも、急速に注目を集めているのが「スリープテック」だ。①睡眠の質や量を脳波や体動からセンシングする、②認知行動療法を踏まえたアプリで睡眠の質・量の改善を促す、③空調や照明などでリビングや寝室の環境を整えて、質の高い眠りと目覚めができる空間を作る――など様々なテクノロジーが開発されてきた。従来の睡眠関連の新商品開発というと、寝具やまくらの工夫で、快眠にいざなう、疲労がとれやすくするというものが主体だったが、すっかり様変りした。

 これら新テクノロジーを用いて睡眠の量・質を改善させるというムーブメントの背景には、わずかここ10年ほどで睡眠中に脳が行っている新たな働きが続々と見つかってきたことがある()。

表 医学研究が明らかにした、睡眠が持つ新たな働き
(出所:日経BP総研 メディカル・ヘスルラボ)
睡眠の働き
認知症リスクを下げる睡眠中に、脳の神経細胞の周囲にあるグリア細胞が収縮し、脳内の老廃物を排出する働きが見つかった。睡眠時間が足りないとアルツハイマー型認知症の発症原因となるアミロイドβという物質の排出が十分にできない。
メンタルヘルスを保つ睡眠中、特に夢をみるREM睡眠時に記憶が整理されて、「恐れ」「悲しみ」などの感情スケールは減少し、「幸福」についての感情スケールは上がる。
記憶を定着させる学習した記憶は、睡眠中に短期記憶から長期記憶に変換される。学習後、早く眠った方が、定着率が高いことが分かっている。
免疫力を高める風邪の引きやすさで検討されており、睡眠が十分な状態に対して、6時間未満で4.2倍、5時間未満の睡眠不足で4.5倍、風邪を引くリスクが高くなることが分かっている。また、予防接種などのワクチンによる抗体は睡眠不足では十分作られないというデータも。
体重や血圧を適正に保つ睡眠不足があると肥満や高血圧のリスクが高まることが分かっている。睡眠不足だと、食欲ホルモンのグレリンが増えることが分かっている。

質の高い睡眠は、脳の老廃物排出促し認知症リスクを下げる

 中でも、今もっともホットなものが、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβと睡眠の関係だ。2013年ごろから論文報告が増え、今も続報が出続けている。

 従来からアミロイドβの蓄積のリスク因子が検討されてきていたが、その1つが眠りの質だと判明したのだ。米ワシントン大学などの研究によると、就寝時間中にぐっすり眠り続ける睡眠の質が高い人ではアミロイドβの脳内蓄積の割合が低く、断眠がある睡眠の質が低いグループの人ではアミロイドβの脳内蓄積が多いことが分かっている。

 英ロチェスター大学の別の研究では、このメカニズムも明らかになっている。脳は、神経細胞とそれに栄養を補給するグリア細胞に満たされているが、睡眠中はグリア細胞が収縮してアミロイドβなどの脳の老廃物を排せつする作用が見つかった。逆に、このメカニズムを検証する動物実験も行われている。マウスを使って睡眠を人為的中断させる実験をするとアミロイドβの排出が阻害されることも分かった。

 睡眠の質をセンシングすることが、認知症リスクが高い人を見つけることにつながるとも言える。さらには睡眠の質の改善が認知症の予防につながる可能性も見えてきたわけだ。

メンタルヘルスと、記憶の定着にも欠かせない睡眠の役割

 また、睡眠中に記憶の整理が行われており、メンタルヘルスの維持に欠かせないことも分かっている。2011年に報告された米カリフォルニア大学バークレー校と東京医科歯科大学の共同研究では、夢を見るとされるREM睡眠中に、記憶が整理され感情がコントロールされることが判明している。睡眠前後の比較をすると「恐れ」「悲しみ」「怒り」「幸福」の4感情のうち、「恐れ」「悲しみ」は著しく減少し、「幸福」が著しく高まる。REM睡眠により夢見て眠る余裕が与えられれば、メンタルヘルスは高められるわけだ。

 REM睡眠、ノンREM睡眠などの有無は通常は脳波で計測するが、これをほかの代替手法でセンシングするための開発が急がれるのは、このようにそれぞれの睡眠フェーズの役割がはっきりしてきたことが理由の1つだ。

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