「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
工場長を務めています。最近、顧客からの品質に関する要求水準が高まっているのに、従業員が十分対応できなくなりつつあります。コスト削減やスピードアップの要求も厳しくなっており、従業員への負荷が高まっているのは分かっています。そのため、工場内を巡回する際にみんなを叱咤激励するのですが、今ひとつ効果が上がりません。部下の士気を高めるうまい方法はありませんか。

前回から:工場の巡回時にメンバーを叱咤激励する術に悩む相談主。肌附氏は、トヨタ自動車の工場巡回の名人として名誉会長の張富士夫さんの米国の工場での行動を説明する。

米国工場の運営がうまくいった背景

肌附氏— トヨタ自動車は海外工場の運営が比較的良好だと評価する声があります。その大きな理由は、分け隔てなく従業員と接し、ねぎらいの心を大切にするトップの姿勢があると私は考えています。

編集部:社長や工場長といった上層部の姿勢が重要だということですね。

肌附氏— もちろんです。なぜなら、トップのそうした姿勢は現場に波及していくからです。私が直接話を聞いた管理者の事例としては、田原工場の工務部の次長がいます。この次長は、1週間に1回の頻度で30分ほど“所在不明”になることで有名でした。菓子や缶コーヒーなどを持って消えるのです。どこかで1人で休憩しているのだろうとみんな思っていました。

 不思議に思っていた私は、ある日、この次長と会った際にどこに行っているのか尋ねてみました。すると、「実は、下水処理場に行っている」と言うのです。田原工場には敷地の片隅に下水処理場があり、そこで1人で働いている社員がいました。正直言って、下水処理場の仕事は従業員の間で不人気で、皆が最も避けたがる仕事でした。もちろん、工場の中で大切な仕事であることに変わりはありません。しかし、「そんな場所で1人で働いているのはかわいそうだ」と思った次長は、定期的にこの社員が働く場所を訪れては、しばらく世間話をした後、元の職場に戻っていたのでした。菓子や飲み物はその社員への差し入れだったのです。

編集部:目立たない場所で頑張っている部下にほど、気を遣うということですね。巡回行動の際に、管理者が部下をねぎらったり、励ましたりするというのは、トヨタ自動車の中では珍しくないようですね。

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