FinTech革命によって今までにない斬新なサービスが登場し、利用者が具体的なメリットを享受できる段階に来ている。一方で2018年1月には、革命の旗手と目されてきた仮想通貨取引所の1社が巨額の流出事件を起こした。「イノベーション」と「ルール」のバランスをとる難しさを露呈した格好だ。ここ数年続いてきた“熱狂”に冷や水も浴びせた。FinTech革命はどこへ向かうのか。金融業界の論客たちがその行方を占う。

 2017年を通じて、日本におけるFinTechの動きは本格化した。イノベーションを支援するために必要な制度的枠組みは着々と整いつつあり、銀行API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)や金融機関とベンチャーの協働・出資関係も盛んになってきた。本稿では、こうした取り組みの中で見られてきた特徴をヒントに、2018年以降の世界における5つのキーワードを探ることとしたい。

セキュリティ危機に始まった2018年

瀧 俊雄(たき・としお)マネーフォワード 取締役 兼 マネーフォワードFintech研究所長
慶應義塾大学経済学部卒業後、野村証券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネス モデル等の研究に従事。2011年、スタンフォード大学MBA修了。同年より野村ホールディングスCEOオフィスに 所属。2012年10月よりマネーフォワードに参加。2015年8月、マネーフォワードFintech研究所長に就任。
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 最初のキーワードは「セキュリティ」だ。2018年、日本のFinTech業界は大手仮想通貨取引所コインチェックにおける580億円相当の仮想通貨が外部に流出するという事故で幕を開けた。イノベーションと規制というバランスの中で、各国当局は政策面で難しい舵取りを迫られてきたが、その難しさが不幸にも日本で白日の下にさらされる結果となった。

 日本は世界に先駆けて仮想通貨に関する法制を整備してきた。そして、世界における月間取引の半分以上を日本が占める時期もあった。ブロックチェーン技術の活用においても、世界トップレベルの人材が日本を経由していくなど、ほかの技術領域では見られなかった流れが生まれている。

 仮想通貨先進国というポジションと、イノベーションを政府が阻害しない「スマート・レギュレーション」と呼ばれてきたアプローチは、仮想通貨交換業の登録に「みなし業者」というブリッジ期間を設けて対応したことによって逆に制度の穴を突かれる形になってしまった。

 とはいえ、これだけの事故が起きても、エコシステムの中では技術の利用拡大に向けた“信頼”が損なわれていないように見える。ブロックチェーンの本質的な技術の性能と、取引所というシステム的には例外的な入口におけるセキュリティ技術の問題。この2つが異なるということが、広く理解されているためだろう。「成長を焦ったベンチャーが」といった表現でひとくくりにイノベーションを抑え込もうとする動きもあり得たはずである。しかしながら、行政庁や金融機関を含めたエコシステムは、丁寧に分離して問題に対処している印象だ。

 こうした動きが可能になった背景には、新しい技術標準を受け入れる体験が蓄積されてきたことに一因があるのではないだろうか。好例と言えるのが、2017年から2018年にかけて進められている金融情報システムセンター(FISC)の安全対策基準第9版に向けた改定作業が挙げられる。

 FISCの安全対策基準は、金融機関におけるセキュリティ基準の根底的な考え方を表すものだ。改定作業を通じて、リスクの大きさに応じた対処(リスクベースアプローチ)の適用や、金融産業におけるクラウドインフラの活用が進んだ。

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