技能労働者の大量離職を控える建築の施工現場で、建設ロボットや点検ドローンなどを活用した激しいデジタル競争が始まった。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のデータを生かそうとする動きが加速している。連載最終回は、4月9日発行の書籍「キーワードでわかる 都市・建築2.0」から、建設現場の生産性向上に関する6つの注目キーワードを取り上げる。

〔図1〕小柳建設(新潟県三条市)が日本マイクロソフトと連携して開発している「ホロストラクション」の活用イメージ(出所:小柳建設)
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 建築の施工現場は天候などに影響を受けるため、工場などの環境と比べると不安定だ。施工現場がその状況を一手に引き受けて建築物を完成させる。多数の関係者が様々な専門性を持ち寄り、個別性の強い建築物をつくるため、デジタル化はなじみにくいとされてきた。しかし、センサーやカメラなどの機能が進化し、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などとの連携に期待が高まる今、他産業と協業し、建築で使える「道具」を育てる機運が高まっている。

 設計と一気通貫した建設現場のデジタル環境が構築できれば、「日本の建築界が世界に先駆けてものづくり革命を起こすことになる」。そう話すのは、建設ロボットの開発協力を担うアットロボティクス、アンズスタジオ代表の竹中司氏だ。現場のデジタル革命は待ったなしだ。

MR(複合現実)─ゲーム化する現場で未来を見る

 建設現場がSF映画やゲームで見たような近未来的な光景になる日も、そう遠くはない。実際に、ゲーム業界で使われている技術を用いて、BIMモデルなどを建設現場で活用する取り組みが始まっている。その1つが、MR(複合現実)だ。

 MRとはMixed Reality(ミックスド・リアリティー)の略語で、現実世界と仮想世界を融合させた映像をつくり出す技術だ。MRデバイスには「HoloLens(ホロレンズ)」などがある〔写真1〕。

〔写真1〕日本マイクロソフトが2017年1月から開発者向けに提供を開始した「ホロレンズ」(撮影:日本マイクロソフト)
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 ホロレンズは、Windows10を搭載したゴーグル型のウエアラブルコンピューターで、首を振って見回す現実世界に3D(3次元)イメージを重ね合わせることができる。視界に映る画像や動画を蓄積したり、遠隔地にいる人とリアルタイムで共有したりすることで、場所に拘束されがちな建設業での活用が期待されている。

 MRと類似の技術で、視界のすべてを仮想世界で表現する「VR(バーチャルリアリティー、仮想現実)」、現実世界に対して部分的にデジタルデータを加えてタブレットやスマートフォンなどで見せる「AR(オーグメンテッド・リアリティー、拡張現実)」がある。

 建築分野向けのMRシステムでは例えば「GyroEye Holo(ジャイロアイ ホロ)」だ。建設業向けソフトウエア開発会社のインフォマティクス(川崎市)が2018年1月に出荷を開始した。クラウド上にアップロードしておいた図面データをホロレンズで読み込むと、現実世界の施工現場に、原寸大で図面を広げたような視界が現れる。

 これまで30以上の現場で実証実験を重ねてきた。例えば、展示会のブース設営では紙の図面を広げて墨出しなどをせずに、ホロレンズで見える図面に沿って内装工事を実施できた〔写真2〕。図面通りに施工されたか、あるべきものが施工されているかなどを確認して回ることもできる。

〔写真2〕「ジャイロアイ ホロ」の実証実験を展示会のブース設営現場で実施した例。ホロレンズ越しに実寸大の図面データを現場に重ねて施工した(撮影:インフォマティクス)
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 小柳建設(新潟県三条市)は17年4月にホロレンズを活用した建設業向けのシステム構築を目的とした「Holostruction(ホロストラクション)」事業で、日本マイクロソフトとの連携を発表。土木現場ですでに実証実験を進めており、建築分野での活用も見据える〔図1〕。

 清水建設もMRの活用に向けた技術開発に乗り出している〔写真3〕。同社でMR開発を手掛ける生産技術本部生産計画技術部BIM推進グループの丹野貴一郎氏は、「BIM自体は、多くの情報を入れ込む仕様。『情報があり過ぎて生かし方が分からない』のが現場の実情だろう。実際、BIMをMRに活用する場合、不要な情報も多い。膨大な情報から必要な情報を取捨選択できる人が新しいものを生み出せる」と話す。

〔写真3〕建設予定の建物などを現実世界の都市に重ね合わせることで、スケール感や街並みとの調和なども確認できる(撮影:清水建設)
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 MRのような新技術を施工現場でどう生かすか。ゲーム化する現場では、未来を見通す采配力や創造力が求められる。

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