AI(人工知能)など新しいテクノロジーの波が、建築分野にも押し寄せている。海外では、新素材や医療・バイオ、機械、ITといった多様な分野の先進技術を建築の領域に取り入れることで、建築計画やデザインに新しい価値を次々に生み出している。日本の建築技術が「世界最高水準」を保つために何が必要なのか、ヒントを探る。連載第5回は、4月9日発行予定の書籍「キーワードでわかる 都市・建築2.0」から、意匠・計画分野の8つの注目キーワードを取り上げる。

 意匠分野の変革の主役が「コンピューター」であることは間違いない。もちろんこれまでも設計にコンピューターは使われてきた。だが、それは人間が複雑な与条件を整理した後で用いる「計算の道具」にすぎなかった。これからのコンピューター活用は、「複雑な与条件を整理させる」あるいは「複雑なまま解決策を導く」使い方へと軸足を移すだろう。

 そうしたコンピューター活用の進展によってもたらされる最大の変革は、デジタル・コンストラクションの実現だ。20世紀のモダニズム建築は、大量生産を前提としていた。コンピューター活用により、多様なニーズを多様なまま受け入れ、個別生産に結び付けられるようになれば、人と建築の関係は根本的に変わる。

 一方、公共的な場づくりにおいては、多様な利用者の声を聞き、にぎわい創出に採り入れることが重視されるようになっている。リレーショナル・アーキテクチャーといった言葉に象徴される動きだ。

 こうした設計手法も、現在は設計者が個別に話を聞く形で進められているが、いずれはコンピューターがビッグデータを解析して、方向性を示すようになるかもしれない。

デジタル・コンストラクション─設計・施工を通貫して情報技術を活用

〔写真1〕2017年10月にリニューアルオープンした米国・サンタフェの美術館「SITE Santa Fe(サイト・サンタフェ)」。SHoPアーキテクツが改修・増築部分の設計を担当。光の漏れ方まで全て計算し、3次元データを駆使しながら建設を進めた。建物の横を歩くと、パネルの模様によってモアレ効果を体感できる(撮影:Jeff Goldberg/Esto)
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 20世紀は均質なものを大量生産・大量消費する「マス・プロダクション」を目指す社会だった。しかし人々の生活や嗜好の多様化が進み、製造業などで変革が起こっている。個別の需要を満たす「カスタマイズ」と大量生産を組み合わせた「マス・カスタマイゼーション」へと向かい始めた。

 その流れは、本来「一品生産」を基本とする建築業界にとってなじみやすい考え方といえる。だが、設計の領域だけでは実現しない。「建築の課題は生産技術の進化の遅れにある」と指摘するのは、コンピュテーショナル・デザインに詳しいアンズスタジオ(東京都世田谷区)の竹中司代表だ。

 例えば現在のAI(人工知能)は、反復計算して解を導く「機械学習」に加えて、システム自身が変容し、膨大な情報を多層化された構造で解析できる「ディープラーニング(深層学習)」が可能となった。そうした技術を駆使して設計しても、材料の製造や施工で人の手が掛かりすぎてはコストが見合わない。

 「複雑な形状や工程をロボットが担えるシステムを構築し、設計から施工まで通貫してデータをやり取りする『デジタル・コンストラクション』を追求することが今後は不可欠だ」と竹中代表は言う。デジタル情報技術が設計段階と部品生産や施工段階までを総合的に結ぶことで新たな革新が生まれる。

 海外でもデジタル情報技術の活用は喫緊の課題だ。例えば、米国の設計事務所のSHoPアーキテクツは、複雑なデザインでも材料メーカーや施工者と3次元データをやり取りしながら建築を組み立てていく〔写真1〕。同社のクリストファー・シャープルス代表は、「コンピューターの進化とともに、米国の建築生産システムは効率化に向けて大きく変わった。技術力の高い日本の場合、変化のスピードはもっと速いだろう」と予測する。

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