6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、実質的に民泊解禁となる。連載第4回は、前回のキーワードであげた「民泊」を深掘りする。ここで取り上げるのは、世界最大手の民泊仲介会社Airbnb(エアビーアンドビー)の取り組みだ。建築家の長谷川豪氏と協働して、奈良県吉野町に宿泊施設を設けた。地元のコミュニティーが施設を運営することで、宿泊客と地域の距離を一気に縮める新しい挑戦が始まっている。

 1500年代から林業の記録が残り、造林発祥の地といわれる奈良県吉野町。町の東西を蛇行する吉野川のほとりに、ゲストハウス兼コミュニティースペースの「吉野杉の家」が2017年2月にオープンした〔写真1〕。

〔写真1〕2本の大きなケヤキに挟まれて立つ「吉野杉の家」。敷地を先に決定し、周辺環境に合わせてスケールやプロポーションなどを調整した(撮影:生田 将人)
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 建物は、米国に本社を置く大手民泊仲介会社のAirbnbと、長谷川豪建築設計事務所(東京都新宿区)、吉野町の地元組織などが協働してつくり上げた。運営管理は、地元の製材業などを営む人々で構成する団体「Re:吉野と暮らす会」(以下、暮らす会)が担当する。宿泊客を地域のコミュニティーが迎え入れる斬新な仕組みだ。

移築を前提に設計

 プロジェクトのきっかけは、16年夏に東京・青海で開かれた展覧会「HOUSE VISION(ハウス ビジョン)2」だ。ディレクターを務めたデザイナーの原研哉氏が、Airbnbと長谷川豪建築設計事務所を引き合わせ、吉野杉の家の企画がスタートした〔写真2〕。

〔写真2〕左は、2016年夏に東京・青海で開かれた「HOUSE VISION2」で吉野杉の家を展示している様子。右は、吉野町の敷地に移築している様子(撮影:左は安川 千秋、右は南工務店)
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 同事務所の長谷川豪代表は、「当初から、展覧会後に移築して実際に使える建物を提案しようと話し合っていた。加えて、ツーリズムとコミュニティーのハイブリッドを目指そうと考えた」と振り返る。

 これまでAirbnbは、住宅の空きスペースなどを提供する「民泊」の仲介ビジネスによって、日本をはじめ、世界の旅行業界を席巻してきた。次の一手として狙うのが、過疎化する地域の活性化だ(詳細はこちらのインタビュー参照)。

 吉野杉の家では、1階にコミュニティースペース、2階に宿泊スペース2室を配置した〔写真3〕。長谷川代表は次のように語る。「民泊の良い点は、住宅を借りることで、地域に一気にダイブして住民の感覚になれることだ。吉野杉の家でも、地域の住民がコミュニティースペースに立ち寄ると、宿泊者がお茶を入れてくれるなど、ゲストとホストの関係性が逆転し得るような施設にしたかった」

〔写真3〕川に向かって窓が並ぶ、開放的な1階のコミュニティースペース。床、天井、壁すべてを吉野産のスギで仕上げた。写真奥のキッチンカウンターに見える部分が、帳場スペース(撮影:生田 将人)
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 旅館業法上、施設は簡易宿所として営業許可を取得した。展覧会後は吉野町が現在の敷地に建設し、暮らす会に運営管理を委託した。それ以外にも、敷地や木材の提供、施工、朝食の準備など様々な役割で地元の組織がプロジェクトに関わっており、まさに町ぐるみで成り立っている宿泊施設といえる〔図1写真4〕。

〔図1〕吉野町や地元組織は、木材提供など企画段階から関わり、今は施設の運営に主体的に関わる。展覧会後、建物はAirbnbが吉野町に譲渡し、移築後の基礎工事や修復費用などは吉野町が負担した(出所:「Re:吉野と暮らす会」の資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)
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〔写真4〕設計した長谷川豪代表らが、敷地選定のために吉野町に訪れたときの様子。左から、「Re:吉野と暮らす会」の石橋輝一代表、Airbnb共同創業者のジョー・ゲビア氏、長谷川代表(撮影:桝谷 紀恵)
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