30年以上前、駆け出しの雑誌記者だった頃、ある先輩から「記事の題名を疑問文にするな」と指導された。彼は理由をこう言った。「どうなるのか分かっているなら疑問文にせず、こうなる、とはっきり題名に書け。どうなるのが分からないならそもそも書くな」。

 その先輩は新聞で仕事をしてきた人だったはずだ。確かに新聞記事の見出しに疑問文はまず出てこない。なるほどと思ったものの、短いニュース記事はともかく、それなりに長い特集記事になると、疑問文を使いたくなるときがあった。インターネットが使えるようになりWebサイトにコラムを書くようになると、言い切る題名をあえて避け、わざと疑問文にしたりした。

 今回の題名は当初、「システムをアジャイル開発してもビジネスがアジャイルでなければ無意味」としていたのだが、読み返すとなんだか偉そうな言い方だと気になり、色々書き直しているうちに疑問文にしてしまった。

 元の題名からお分かりのように話は単純である。いわゆるアジャイル開発に取り組み、現場の声を聞きながらシステムを作っていったとしても、そのシステムを使う現場や組織が俊敏に(アジャイルに)ビジネスをこなせるとは限らない、ということだ。

我々のコードは期待に応えているか

 題名を疑問文にしたからではないが、ここで疑問文を列挙してみよう。

 我々は今何十億行というコードを保有している。それには柔軟性があるだろうか?それは統合されているだろうか?それは再利用可能だろうか?それは相互運用性があるだろうか?それはビジネス戦略と整合しているだろうか?そのセキュリティーは万全だろうか?それは期待に応えているのだろうか?

 これは『ビジネスアジリティ・マニフェスト 序説』という文書からの引用である。原文には疑問文の後にいちいち答えが書かれているのだが、全て「いや、ない」になるので割愛した。

 ビジネスアジリティ・マニフェストについて日経コンピュータに記事を2回書いたのでそこから少し引用する。まずマニフェストの起草者3人の紹介である。

 「3人はロジャー・バールトン氏、ロナルド・G・ロス氏、ジョン・A・ザックマン氏だ。バールトン氏はビジネスプロセスマネジメント(BPM)、ロス氏はビジネスルールマネジメント(BRM)、ザックマン氏はエンタープライズアーキテクチャ(EA)の第一人者である。3人は2017年11月、ビジネスにアジリティをもたらすための原則をまとめたマニフェストを発表した」

 ビジネスアジリティ・マニフェストは日本語訳が公開されているのでぜひ参照していただきたい。「アジャイル開発すればビジネスは俊敏になるのか」という疑問文への回答が、マニフェストの中にある次のくだりである。

 「ソフトウエアを高速に開発するだけでは、存続と成長のために十分ではない。そのようなソフトウエアは一旦運用すれば意図しない結果を招くことなく継続的かつ迅速に変更することが難しくなりがちだからである。 アジャイルなビジネス・ソリューションの正しい評価基準はビジネス知識がどれだけその中に構成されているか、そしてその知識をどれだけ容易に変更または再構成できるかということである」

ビジネス知識が何より大事

 「いや、『一旦運用』に入ってからも変化に応じて次々に作り直していくのがアジャイル開発だ」という意見もあるだろうが、アジャイル開発に協力するビジネス担当者の頭の中にある「ビジネス知識」が不十分だったら、何回作り直してもビジネス知識は構成されない。

 ビジネスの担当者を責めているわけではない。そもそもビジネスがどうなっているのか、組織として整理していない限り、複数のビジネス担当者に聞いたところで違った知識が出てきてしまう。どうしたらよいのか。

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