デジタルトランスフォーメーションをなぜDXと書くのかいまだに分からないが「DXレポート」をとりまとめた中野剛志商務情報政策局情報技術利用促進課(ITイノベーション課)課長の発言を2018年10月23日、聞く機会があった。

 「老朽化したITシステムを何とか刷新していただきたい。そのとき大事なのは業務を大きく変えること。変える先はCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)になる」

 古い情報システムを入れ替えるだけではなく、業務そのものを変える。正論である。

 業務を変える先としてなぜCRMが出てくるのか。中野課長のこの発言は、一般社団法人CRM協議会(藤枝純教会長)が開催した「2018 CRMベストプラクティス賞 表彰式」の来賓あいさつにおいて出たものだからである。中野課長のあいさつの後、表彰式と事例紹介が行われ、同賞を受賞した企業・団体14組と、「2018 CRM奨励賞」受賞企業2社が登壇、CRMに取り組む事例を16件発表した。2017年に続き、発表を聞くことができた。

 CRM協議会は「顧客中心主義経営」を提唱しており、企業や団体におけるCRM事例からベストプラクティスを探し、表彰する活動を2004年から続けている。

 「こういう賞があると刺激になってよい。CRMそのものの推進はCRM協議会にお任せし、政府としてはCRMを進める際、つまずく原因となる石をどける手伝いをしていく」(中野課長)。

 「顧客中心主義経営」という以上、CRMは経営の話、ビジネスの話でもあり、ITだけの話ではない。16件の受賞事例に共通する取り組みの姿勢について書いてみたい。

地味な活動が欠かせない

 顧客中心主義経営やCRMの取り組みで多くの受賞企業が強調していたのは当然だろうが「顧客体験の充実」であった。カスタマーエクスペリエンス、略してCXとも言うらしい。DXと同じくらいCXと書くのは嫌だが、複数の受賞企業がCXを使っていたので触れてみた。

 CRM、CXと書くとITやDigital、あるいはxTECHといった言葉を連想してしまう。それはともかく、発表された取り組みはいずれも地に足が着いたものばかりだった。

 例えば物流大手、DHLジャパンのカスタマーサービス本部(受賞モデル名は「コールセンター専任制による顧客理解モデル」、以下同様)はグローバル企業の日本法人だが「お客様との感情的な結びつき」を重視し、重要顧客に対してコールセンターに専任の担当者を置き、電話やメールの応対に加え、担当者が顧客企業を訪問する。コールセンターにかかってくるコールの内容をそのまま記載した資料の全文を幹部が読み、必要な対策をとるという。

 業務用プリンター・メーカーのサトーホールディングス(「営業と保守の連携基盤モデル」)は客先のプリンターの稼動状況をネットワーク経由で見守る仕組みや、営業や保守サービス部門が持つ顧客情報を共有するシステムを用意しているが、目指すのは「営業でも保守サービスでも、部門を問わず社員に何か言っていただければ、誰でも状況を把握してきちんと応対する」ことである。

 女性向けサイト「オズモール」を運営するスターツ出版CS推進室(「CX重視メディア・モデル」)は「ずっと付き合っていただく」ために利用実績に応じたポイントプログラムを提供する。サイトに掲載する情報の品質にも配慮しており、利用者の投稿をすべて目視で確認し、掲載可否を判断する。

 金融業の場合、金融庁が2017年に打ち出した「顧客本位の業務運営に関する原則」の遵守を迫られる。みずほ証券(「営業活動高度化モデル」)は、ロイヤリティ低下の懸念がある顧客を把握し、営業部門に訪問を推奨する仕組みを用意した。

 三重県の津市(「高齢者外出促進モデル」)は高齢者の外出を後押しする支援事業の取り組みで受賞した。事例発表の後半では昨年津市が受賞した「情報公開による公共資産の有効活用モデル」を世界に発信すると述べ、英語でプレゼンテーションした。後者は津市が保有する設備の築年、面積、経費などを公開し、民間に利用してもらう活動である。

 2018 CRM奨励賞を受賞したホテルおかだは「宿泊される方に良い体験を」と語り、葬儀関連サービスを手がけるベンチャー「よりそう」は「社名の通り、お客様ごとに寄り添う」と述べていた。

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