経済産業省がいわゆる「レガシーシステム」を目の敵にしている。例えば次のように主張している。

 「ITシステムが、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっている『レガシーシステム』となり、DXの足かせになっている状態(戦略的なIT投資に資金・人材を振り向けられていない)が多数みられる」

 これは2018年9月7日に公表された「DXレポート」の簡易版に出てくる説明である。DXレポートには「サマリー」「本文」「簡易版」の3種類があり、筆者は最初にサマリーを開いたが、霞ヶ関の方々がよく作るプレゼンテーションシートの限界まで文字を書き込んだ資料なのでよく分からなかった。

DXとはアンテナ?それともデラックス?

 続いて本文を開いているとこちらは文章だけであり、いくつかの用語が気になったものの、全体としては読みやすかった。読者の皆さんにも一読を勧めたい。

 気になった用語の筆頭はレポートの題名にも付いている「DX」である。「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略だそうだが、DXと出てくるとアンテナあるいはデラックスと読めてしまう。

 例えば「今後DXを本格的に展開していく上では、DXによりビジネスをどう変えるかといった経営戦略の方向性を定めていくという課題もある」というくだりが本文の最初のほうに出てくるが、「アンテナを本格展開とは何か」「デラックスによりビジネスをどう変えるのか」と余計なことを思ってしまい、いちいちひっかかる。

 レポートの巻頭に「参考:DX の定義」という記述があり、そこでIDC Japanの定義と次の意義付けが紹介されている。

 「企業が生き残るための鍵は、DXを実装する第3のプラットフォーム上のデジタルイノベーションプラットフォームの構築において、開発者とイノベーターのコミュニティを創生し、分散化や特化が進むクラウド2.0、あらゆるエンタープライズアプリケーションでAIが使用されるパーベイシブAI、マイクロサービスやイベント駆動型のクラウドファンクションズを使ったハイパーアジャイルアプリケーション、大規模で分散した信頼性基盤としてのブロックチェーン、音声やAR/VRなど多様なヒューマンデジタルインターフェースといったITを強力に生かせるかにかかっています」

 この説明文についても言いたいことがあるがIDC Japanへの八つ当たりになりかねないので割愛し、話を進める。「DXレポート」と書くのはつらいので以下では「2025年の崖レポート」とする。

 2025年の崖レポートのことを知ったきっかけは同僚の記事を読んだことだった。9月20日に木村岳史が、9月26日に矢口竜太郎が日経 xTECHに記事を公開していた。

 矢口の記事はこのレポートを取りまとめた中野剛志商務情報政策局情報技術利用促進課(ITイノベーション課)課長へのインタビューに基づいている。木村のほうは「記者の眼」というコラム欄で公開されたものだ。

役立つ遺産として相続するには計画が必要

 中野課長のレガシーシステム批判を筆者が聞いたのは今年の年頭であった。発言を拝聴し、思うところがあり、それを日経コンピュータの2018年5月10日号の記事に書いた。その記事で書いたことをコラムに仕立て、7月6日付の日経ビジネスオンラインでも公開した。

 日経コンピュータに掲載した拙文の骨子は「拙速なレガシー刷新はかえって負債を増やす。役立つ遺産として相続するには計画が必要だ。計画の前提はデータアーキテクチャである」というものであった。レガシーについて次のように書いた。

 「レガシーとは遺産であり、過去から現在そして未来へと引き継がれる何かを指す。企業が長年使ってきた情報システムには良くも悪くも業務の工夫とその結果が蓄積されている。良い点があれば引き継がないといけない」

 経産省は「ITシステム」と書いているが筆者は「情報システム」と書く。情報システムとは「組織が持つビジネスの知識と知恵を活用するための仕組み」であり、IT(情報技術)を使っても使わなくてもよい。

 この情報システムの定義は製造業向け情報基盤の整備に取り組む特定非営利活動法人、技術データ管理支援協会(MASP=Manufacturing Architecture for Series Products)の手島歩三氏(ビジネス情報システム・アーキテクト代表)によるものである。日経コンピュータの記事の中で手島氏の意見を引用し、次のように書いた。

 「組織が持つ知識と知恵こそ良きレガシーであり、それは組織に固有で構造は各々異なる。『知識と知恵の構造を捉え、情報システムのどの部分にどの知識や知恵を組み込むか、ビジネスを担う実務担当者が自分の頭で考える必要がある』(手島氏)」

 こう書くと「組織が持つ知識と知恵」が反映されていない、悪しき基幹系システムをあてがわれた知り合いからまたお叱りのメールが送られてくるかもしれない。彼は基幹系システムなど軽視し、現場がExcelで作った「組織が持つビジネスの知識と知恵を活用するための仕組み」を使え、と主張している。

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