「今さらコンピューターではないでしょう」

 2009年に日経コンピュータ誌の編集長になった際、何人かの知り合いから雑誌名を変えたほうがよいと助言された。日経コンピュータでは古臭いそうだ。新しい名称の候補を問うと、ある人から「日経IT」はどうかと言われた。

 いずれも年長の方であり助言は助言として拝聴した。「古いから改名せよと言うなら皆さんも結構なお年ですからお名前を変えてはどうでしょう」と言ってみたらどうかと思ったときもあったが失礼に当たるのでやめた。とはいえ雑誌名も変えなかった。

 それから10年、おかげさまで日経コンピュータは先ごろ1000号を発行した。ただし1000号(2019年10月3日号)をめくってみるとコンピューターという言葉はほとんど出てこない。どうしてコンピューターと言わなくなったのだろうか。

30年間に使われた英略語の数々

 手元にA2判の方眼紙を広げ、コンピューターとその利用形態を何と呼んできたか記憶をたどり、折々の言葉を書き出してみた。

 筆者が日経コンピュータ編集部の記者になった1985年当時、汎用コンピューターという言葉はあったが長いせいか汎用機と書くこともあった。ミニコンピューター、オフィスコンピューター、パーソナルコンピューターはそれぞれミニコン、オフコン、パソコンと略された。

 「コンピューター支援による何とか」という表現がしばしば使われた。CAD/CAM(コンピューター支援による設計/製造)、CASE(コンピューター支援によるソフトウエアエンジニアリング)などだ。この意味のCASEは死語になったがCAD/CAMはまだ生きている。

 CG(コンピューターグラフィックス)という言葉もあった。ソフトウエア開発を手掛けるコンピューターサービス(CSK)、コンピューターアプリケーションズ(CAC)という企業もあった。

 このように「C」を冠した略語は色々あったし、コンピューターを社名に入れたソフトハウスや計算センターはたくさんあった。

 一方、企業でコンピューター関連の仕事をする部門は「情報システム部」あるいは「電算部」という看板を掲げていた。「EDP部」とも言ったらしいが、そういう名刺をもらった記憶はどうもない。

 ただし1985年当時の日経コンピュータに『われらEDP人』という連載欄があった。企業の情報システム部を訪問し、部長や部員の方々を紹介する企画だった。EDPとはエレクトロニックデータプロセシングの略で死語になったが、コンピューターを使ったデータ処理のことである。

 コンピューターメーカーは顧客の情報システムづくりを支援する自社の技術者を「SE(システムエンジニア)」と名付けた。コンピューター技術者という表記もあったが、それよりはSE、CE(カスタマーエンジニア)、プログラマーと呼んでいた。

 思いつくまま書き出し、振り返ってみると1985年当時からすでにコンピューターという言葉は見えなくなりつつあったと思われる。使い道が事務計算やデータ処理にとどまらず、もう少し高度な情報システムの実現になったからだろう。「システム」という言葉が表に出てきてコンピューターは「C」や「コン」になっていった。

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