「こんな解決策を見つけて実行するとは。私が手掛けてきたシステム開発のプロジェクトではめったにないことです」

 危機に見舞われた、あるプロジェクトについて2019年6月30日、電子メールで感想を求めたところ、ベテランのプロジェクトマネジャー(PM)でありIT企業の役員でもあった知人は冒頭の回答を送ってきた。

 危機プロジェクトの概要は以下の通りである。3人組女性アイドルの話だが、何らかの製品かサービスのプロダクトマネジャー、あるいはその製品やサービスを開発するプロジェクトのマネジャーのつもりで読んでいただければと思う。

「3人そろわないと駄目」

 成果物を提供するために不可欠なキーパーソンが3人いる。3人で提供すると説明し、8年以上活動してきた。ほぼすべての顧客は3人がいなければ駄目だと言っている。ところが2017年の年末以降、やむを得ない事情で1人の参加が難しくなった。マネジャーとしてどうすべきか。

 残る2人で乗り切る。これは難しい。成果物は3人の参加が前提になっており、2人で提供すると全くとまでは言わないが相当別の物になってしまう。

 誰か別の1人を加え3人で取り組む。さらに難しい。参加が難しくなったからと言って、必要不可欠かつ長年の功労者をあっさり諦めるようなことをしたら顧客が激高する。そもそも3人の組み合わせは奇跡あるいは完璧と称されており、別の人で代替できるものとは思われない。

 3人がそろわないことを理由に活動を停止する。「この3人でなくなったら終わり」と取れる発言を3人組は以前していたから筋は通るものの、顧客は嘆く。何より企業が許さない。

 企業とは3人組の所属先を指し、3人組を生み出したマネジャーは社員である。企業は株式を上場しており、株主は総会で3人組の動向を問うてくる。間違っても「やめます」とは言えない、株価が下がる。

 関係者は企業や株主だけではない。3人組は世界征服をもくろんでおり、海外企業との契約がある。「やめます」と言ったら違約金が発生しかねない。

 2人組では駄目、別の1人を加えた3人組も駄目、やめることは論外、これは苦しい。

顧客を怒らせる奇策

 3人組のマネジャーは2018年に入って顧客を驚かせ、怒らせる奇策を打ち出した。2人に複数人を加え、しかも加える人数を案件ごとに変えた。ある時は4人に、またある時は7人にする。

 ブランド名はそのまま、従来の2人がいるから提供する成果物の基本は変わらない。だがコンセプトやイメージに大胆不敵に手を加えた。製品に例えるなら、新機能を一気に加え、従来機能はばっさり削る。人数が変わるので役割分担を見直す。宣伝動画には従来3人がそろって登場していたが奇策を始めて以降、3人を出さず、意味不明の何かを流す。

 覚悟の上の奇策であり、誰か1人を加えて3人にすることに比べ、大変な時間と労力を費やしたはずだが顧客は相当に反発した。いわゆるBtoCのグローバル案件であるため、全世界の顧客が何かあるとすぐにSNSやインターネット上の掲示板に投稿する。「これは私たちが知っている彼女たちではない」といった不満の声が相次いで発信された。

 がらっと変えた成果物を送り出して以降、3人組もマネジャーも所属先企業も情報発信を控えた、というよりやめた。4人にするか7人にするか事前に一切告知せず事後も一切説明しない。後から好意的に考えると変化を予告していたような画像や文言がインターネットに発信されていたが、それから実際の変化を読み取ることは不可能に近かった。

 突然の奇策と沈黙に怒った顧客がさらにあれこれとインターネットに投稿するが黙秘作戦は続いた。例外は株主総会でさすがに株主の追及には答えざるを得なかったが、社長は「新たな挑戦をしている。期待してほしい」とお願いをしてその場を収めた。

 2018年10月、休んでいた1人が3人組を抜けることが正式に発表された。悲憤こう慨する世界の顧客をよそに奇策は一段と強化され、2人組の見た目は誰が誰だか分からない、とまでは言わないが劇的に変わってしまい、そのままで2018年は終わった。

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