「大きいことはいいことだ」

 50年ほど前に放映されたテレビ広告に出てきた言葉である。今ならこうは言わない。例えば次のようになるだろう。

 「早いことはいいことだ」

 「速いことはいいことだ」

 片仮名を並べてしまうがアジャイルデベロップメントやビジネスアジリティ、クイックレスポンス、オンデマンドなど俊敏な活動を称揚する言葉が色々ある。だが何でも早く、あるいは速く、片付ければそれで良いのだろうか。

 「待てないようです。身に覚えがございます」

 同僚が送ってきた電子メールの一節である。自分の力を自己診断したところ彼女は「待つ力」が他の力より劣っていた。

プロは「待つ力」を備える

 「待つ力」はプロジェクトマネジメントのコンサルタント峯本展夫氏がプロフェッショナルの要件として挙げた「五つの力」の一つである。

 峯本氏、彼女、筆者は「五つの力」に関する書籍や研修を用意しようと打ち合わせを重ねている。その一環で峯本氏が用意した自己診断ツールを彼女が使ってみたところ前述の結果が出た。

 「全体にバランスがとれています。成果の基準によっては、待つことのスコアが低い人のほうが高いパフォーマンスをします」

 これは峯本氏から同僚への返信である。簡潔だがなぜか笑いたくなる彼女の文を読み、峯本氏は応答に困ったと見受けられる。「全体にバランスがとれています」と書いているものの彼女の診断結果を示したレーダーチャートは明らかにバランスを欠いている。

 本来なら「待つ力を高めるにはこうしたらよい」と対策を提示すべきなのに峯本氏は「成果の基準によっては、待つことのスコアが低い人のほうが高いパフォーマンスをします」と述べるに留めた。これでは彼女を誉めることになってしまう。

彼女の怖さを誰も否定しない

 峯本氏がコンサルタントらしからぬ配慮をした理由は分かる。彼女が怖いからである。

 筆者は同僚なので彼女と打ち合わせたり、電子メールをやり取りしたりする機会があり、そのたびに緊張する。関係者数人にメールを送る場合、彼女の名前を筆頭に書き、その後に彼女の上司や先輩の名前を並べ、「(怖い順)」と付記している。返信を見ると上司や先輩は「その通り」と認めている。

 怖いのは顔ではなく物腰である。てきぱき、というか、ぴしっとしている。物怖じせず会議で正論を述べ、「そう思います」「いえ、違います」と言い切る。正確にはこう発言していないが彼女の関西弁を表現できないため標準語にしておいた。

 打ち合わせの間、愛用のタブレットPCでメモをとり続け、当日ないし翌朝には詳細かつ正確な議事録を送ってくる。有り難いが「いつまでに何をすると決めました。よろしくお願いします」と、こちらがすべき宿題を明記してあるくだりを読むと少々胸が苦しくなる。

 仕事を頼むと即、「いつまでにやります」と応答があり、誰かと違って締め切りを守る。苦手な事務作業を前に唸っていると「それは営業の私の仕事です」と肩代わりしてくれる。実に有り難いが、びしっとした彼女と仕事をしていると少々胸が苦しくなる。

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