AI(人工知能)という文字を新聞や雑誌あるいはインターネットの記事で見かけると何となく面白くない。記事を読むのは仕事の一部だからやむを得ないが仕事をしていないときにAIという言葉を見たくない。だが2019年2月10日、思わぬところで接してしまった。

 見たくないと書きながら題名に「AI」を入れてしまったが意外な場所でAIが出てきた話を書く。

ジャージー姿の歌唱に感動する

 連休の中日であった10日の午後、筆者は電車を乗り継ぎ、拙宅と同じ県内にある大手量販店へ向かった。店内にある映画館で女性4人組アイドルの公演を観賞するためであった。実際の公演は横浜の会場で行われ、その様子が全国の映画館に向けて生中継された。

 またアイドルの話かと思われた読者がおられるかもしれない。確かに昨年の本欄に書いた拙文数本の中で、女性3人組アイドルから1人が消え、結局2人組になってしまった経緯についてたびたび触れた。

 ただし2月10日の公演は別の女性アイドルグループによるもので、ある事情があって参加した。なかなか活動を再開しない2人組を諦めたわけではない。決してそうではない。2月10日に公演した4人組は長らく5人組で活躍してきたが2018年に4人組になった。1回の公演で何万人という大観衆を集められるトップアイドルグループである。

 映画館のある量販店に到着し、遅い昼食をとり、開演まで時間があったので書店に入り、「芥川賞発表受賞作二作全文掲載」と朱文字で記載された雑誌『文藝春秋』を買った。選評を読みたかったからだ。

 芥川賞受賞作の片方、『ニムロッド』(講談社)の作者である上田岳弘氏はIT企業の現役役員である。上田氏には日経コンピュータ編集長が2019年1月末にインタビューをしており、その場に同席させてもらった。予習のために受賞作やそれ以前の作品を読んだが、1行目が「サーバーの音がする」で始まり、全編にIT用語が頻出する受賞作を選考委員がどう評価したのか知りたいと思っていた。

 購入後、映画館に入り、雑誌の表紙を眺めると「AI無脳論」という文字があり気になった。著名な解剖学者の方の寄稿らしい。雑誌を開くと「AIと日本人」と銘打った特集が掲載されており、筆頭の「AI無脳論」の他に3本の記事が並んでいた。

 芥川賞の選評は読みたいが「AIと日本人」は読みたくなかったので雑誌をしまい、館内に持ち込んだコーヒーをすすっていると定刻の午後3時30分、横浜にある会場の様子がスクリーンに映し出された。

 少し驚いたのは公演開始の直前、文字と音声による宣言のようなものがあり、そこでAIへの言及があったことだ。AIという言葉が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しているが、小さな違和感がある。大事なのは人工知能ではなくAI(愛)ではないか、といった内容だった。なぜAIが愛になるかというと、この日の公演はバレンタインデーを前に4人組がファンに愛を伝えるという趣旨だったからだ。

 30年以上、原稿を書く仕事を続けているが「愛を伝える」などと書いたのは初めてかもしれない。慣れないことを書いているため違和感があるがこのまま進めたい。

 アイドルの公演であるから歌と踊りがあくまでも主なのだが、バレンタインデー企画ということで歌の合間に4人組は楽しいゲームをしたり、寸劇をしたりした。寸劇は「見えない糸が見えた日」と題され、ここでもAIが登場した。

 4人組の仕事現場を仕切るマネジャーが人間からAIスピーカーに交代する。AIスピーカーは日程や仕事内容を間違えないが、もうからないと判断した仕事を勝手に断ってしまい、4人組を困惑させる。4人組のリーダーに何を大事にして決めているのかと問われたAIスピーカーは「生産性」と答える。4人組は相談の上、マネジャーを人間に戻してもらう。

 その場の光景を思い出しつつ説明してみた。文で書いても仕方ないという気持ちになるが続ける。寸劇の後、やぼったいジャージーを着た4人組は「見えない糸が見えた日」という内容の、彼女たちの持ち歌ではない一曲を真剣な表情で歌った。その光景は当日の公演の中で最も印象に残っている。

 「見えない糸」とは何かを説明する必要があるのかもしれないが、それこそやぼになるので割愛する。ちなみにアンコールの2曲目、当日の最後に歌われた曲は卒業しても想いはつながっているという歌詞であった。

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