改めて「その瞬間を共有せよ。」の概要に触れておこう。2018年12月31日はPerfumeのFUTURE POPツアーの最終日。平成最後の大みそかという一度きりのカウントダウンライブであり、Perfumeのオフィシャルファンクラブ「P.T.A.」の会員だけが参加できた。

 当日は別な意味でも、全国のPerfumeファンにとって特別な夜だった。カウントダウンライブはファンクラブ会員しか参加できないが、ライブが始まる前にPerfumeは年末恒例のNHK紅白歌合戦に出場する。通常は紅白の会場であるNHKホールにいるはずのPerfumeが、2018年の大みそかは横浜アリーナからの生中継による出演になった。

 サザンオールスターズとユーミン(松任谷由実)の共演、米津玄師のテレビ初歌唱など話題満載で盛り上がった、2018年末の紅白。Perfumeファンに限らず、日本中の人が紅白を見た。そんな中、横浜アリーナに集まった1万2000人の観客はライブが始まる前に、Perfumeの紅白生中継にも参加できた。

 紅白出演が終わった直後からライブは始まったが、年が替わる深夜0時前に一時中断。2018年12月31日の午後11時45分から2019年1月1日の0時15分までの30分間を、ドコモのスペシャルコンテンツとして横浜アリーナから全世界に向けて、スマホなどでカウントダウンの様子を生中継した。それが「その瞬間を共有せよ。」だ。現在はYouTubeにダイジェスト版の動画がアップされている。

 この30分のためにドコモは、大みそかでごった返す渋谷のスクランブル交差点の一部を封鎖。横浜アリーナの観客全員に配ったスティック型のLEDライト「FreFlow(通称フリフラ、ソニーグループ製)」と、渋谷にいる約2000人の観客に配布した腕輪型のLEDデバイス(カナダのPixmobが開発している『PixMob』)を、一部に5Gの通信を使いながら光の演出として共有する大実験を敢行した。横浜アリーナと渋谷交差点を5Gで遅延なくリアルタイムで結び、ライブ映像や音声だけでなく演出の光まで2つの会場で同期させることに成功した。

 しかも光の出どころは、Perfumeの3人が右腕に巻いた独自のデバイス。テストで色々な使い方を試し、腕を振るとフリフラの光がパッと変わるのをスタッフの多くが面白がったといい、それを本番で採用した。彼女たちの腕や体の動きに応じて、フリフラの色が変化。その情報が遅延なく渋谷にも伝わって、PixMobも同時に光る。Perfumeの体の動きを光に変換して伝送しているといってもいい。

リオ五輪閉会式のセレモニーメンバーが集結

 ライブ演出の技術支援をしたのが、エンジニア集団のRhizomatiks(ライゾマティクス)。そして、どのテクノロジーを、ライブのどの曲やどの場面で、どんなふうに使うかといった演出を考えたのが、Perfumeの振り付けで知られるMIKIKO氏だ。MIKIKO氏は、2019年2月4日に放送されたNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられたばかり。しかも番組の内容は、Perfumeツアーの裏側に迫るものだった。

 MIKIKO氏とライゾマはPerfumeだけでなく、たびたび共同で公演を開催してきた。例えば、2018年8月末にMIKIKO氏が主宰するダンスカンパニー「ELEVENPLAY(イレブンプレイ)」とライゾマらが実施した、機械学習を用いたダンス公演「discrete figures(ディスクリート フィギュアズ)」はその1つである。

 さらに、今回のカウントダウンライブをドコモ側に提案したのは、電通の菅野薫CDC/Dentsu Lab Tokyo エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターである。菅野氏とMIKIKO氏は共に、2016年のリオデジャネイロ五輪閉会式における「東京2020 フラッグハンドオーバーセレモニー」を成功させた演出メンバー。ライゾマはセレモニーのテクニカルディレクションで、リオ五輪閉会式に参画している。

 菅野氏とMIKIKO氏は引き続き、2020年の東京五輪における開・閉会式の演出メンバーに選ばれている。そう考えると「その瞬間を共有せよ。」は、東京五輪を見据えた壮大な本番環境での実験の1つでもあったといえそうだ。

 横浜アリーナと渋谷のスクランブル交差点を5Gでつなげたら、どんなことができるのか。1万台を超える数のLEDライトを、離れた場所でも同期させて光らせることは可能か。

 渋谷交差点を封鎖して数千人規模の実験をするなど、簡単にできることではない。コンピューター上のシミュレーションでは検証できないことを、実環境で試せるまたとないチャンスなのだ。

 ドコモは横浜アリーナと渋谷にそれぞれ5Gの通信装置を用意し、30分間のカウントダウン中継を実行した。運営面では課題も残ったが、技術的には十分いけることを実証できた。