世界中どこの国でも、大企業は政府による規制強化に反対しがちだ。しかし人工知能(AI)を巡って、それとは逆の動きが起こっている。米マイクロソフト(Microsoft)が最近、顔認識技術に関する法規制が一刻も早く必要だと訴えているのだ。

 米マイクロソフトの社長で最高法務責任者を務めるブラッド・スミス(Brad Smith)氏は2018年12月6日(米国時間)に米ワシントンDCにある有力シンクタンクのブルッキングス研究所で講演し、各国政府は2019年にも顔認識技術を規制する法律を制定すべきだと訴えた。

マイクロソフトのブラッド・スミス社長
(2018年4月に撮影)
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偏見や差別を助長する恐れ

 スミス社長によれば、現在の顔認識技術は3つの大きな問題を抱えているのだという。第1の問題は現在の顔認識が技術的に課題を抱え、偏見や差別を助長する恐れがあるというもの。顔認識技術は白人男性の識別率が最も高く、女性や有色人種の誤検知が高くなりがちだという。

 スミス社長は顔認識技術の性能を第三者がチェックする制度や、事業者が顔認識技術の限界を正直に顧客に伝えることを義務づける透明性規定、顔認識技術の差別的な使用を禁止する規制が必要だと訴える。

 第2の問題はプライバシー侵害だ。顔認識技術を使うことで、複数のカメラにまたがって1人の人物を長時間にわたって追跡することが容易になった。小売店などであれば顧客が店内に入ったところから、商品を選んで購入し、店を出るところまで把握できる。過去とは比較にならないレベルで顧客のプライバシー情報を入手できるようになったことが、消費者に周知されていないことが問題だ。

 これに関してスミス社長は、小売店などが顔認識技術を使用して消費者を識別する場合はその旨を明確に伝えることや、消費者から同意を取ることなどを義務づける規制が必要だと訴えた。

乱用は民主主義への脅威

 第3の問題は政府機関による顔認識技術を使った市民監視や、それに伴う人権侵害だ。スミス社長は政府機関による顔認識技術の使用が、民主主義を脅かすものになるとまで断言する。政府機関が市民を追跡することによって、憲法が保障する集会の自由や言論の自由、移動の自由が損なわれるというのがその理由だ。

 スミス社長は法律を設けて政府機関による顔認識技術を使った市民監視を制限することが欠かせないと述べる。具体的には「裁判所の命令が得られた場合のみ顔認識技術による監視を許可する」や「緊急事態が発生した場合にのみ監視を許可する」といった規制が必要だと訴える。

 政府に対して新しい法規制の制定を求めるだけでなく、マイクロソフト自身も社内規制を整備する。具体的にはAIの開発と利用に関して「公平性」「透明性」「説明責任」「無差別」「警告と同意」「合法的な監視」という6項目の原則を設けて、2019年第1四半期からそれに基づいた行動を開始するとした。

 これらの主張は極めてまっとうだ。しかし、なぜマイクロソフトがこのような主張をするのかという疑問も同時に浮かんでくる。法規制がないのをいいことに消費者のプライバシー情報を大量に集めたり、政府機関に市民監視用の顔認識技術を積極的に売り込んだりすることもできるからだ。

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