滋賀県野洲市は2019年12月9日、10年以上前から人が生活していない分譲マンション「美和コーポ」を、「20年1月25日に行政代執行で解体する」と区分所有者に通知した。市は18年9月に美和コーポを、空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特措法)による「特定空き家等」に認定。区分所有者に対して19年9月21日までに自主解体するよう通知していた。しかし、管理組合の存在しない“廃虚マンション”の解体は実施されなかった。行政代執行による空き家を巡っては「解体費用」や「費用回収」などの課題が生じる。同市の山仲善彰市長に、これら課題への対応策を聞いた。

滋賀県野洲市の山仲善彰市長。特定空き家に認定した分譲マンションの行政代執行による解体と、その後の債権回収は「別問題と考えて実行する」と語る(写真:日経xTECH)
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行政代執行法に基づく空き家マンションの解体について、いつごろから実行を考えていたのか。

 美和コーポを行政代執行によって解体する考えは、区分所有者に解体を命令したころからあった。同マンションには管理組合が存在せず、区分所有者による自主的な解体は難しいと予想されたからだ。築47年の美和コーポは鉄骨保護材にアスベストが含まれている。老朽化によって外壁パネルは剥落しており、周辺にアスベストが飛散する可能性を考えれば、行政が責任を持って危険を除去する必要がある。

 私は今回の問題を「災害」と捉えている。アスベスト飛散のリスクを抱えた建物が放置される状況は、制度の不備などによって人為的に生じた「社会経済的災害」ではないか。例えば、地震などの災害で市内の橋梁が破損したならば、行政がその状況を放置しないのは当然だ。野洲市の財政は決して豊かなわけではないが、社会が安全に存続するためには危険の排除が優先されると考えている。

滋賀県野洲市に立つ特定空き家の分譲マンション「美和コーポ」。2020年1月25日に市が行政代執行によって解体する。19年11月21日撮影(写真:日経xTECH)
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19年3月の取材時は解体費用を約6000万円と見積もっていた。解体費用が1億円を超えるほど膨らんだのはなぜか。

 解体のために市が予算化した費用は1億2500万円に上る。これは解体工事の費用に加えて、工事に必要な土地の借地代なども含む。「野洲特定空家集合住宅解体工事」の工事価格は8600万円となり、うちアスベスト除去工事だけで3200万円以上が掛かる。区分所有者が建設事業者に依頼して試算した解体費用の見積もりは二千数百万円だったが、今回の入札で最安値を提示して選定された建設事業者の積算では、工事が想定以上に困難で費用がかさむと分かった。

2019年3月22日撮影した美和コーポ。当時の試算では行政代執行による空き家解体の費用を約6000万円と見積もっていた(写真:日経 xTECH)
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 まず、解体工事は作業現場として隣地を借りる必要がある。借りた隣地は原状復帰するためコストが上乗せされる。19年10月に市が実施した解体工事の入札には、区分所有者に二千数百万円の試算を出した事業者も名を連ねていたが、入札に参加しなかった。当初の試算価格が妥当ではなかったのだろう。公共発注だから解体費用が高くなったわけではない。

 解体費用は区分所有者に請求することになるが、全額の回収は難しいかもしれない。市が、共同住宅の管理組合の運営に対して関与する制度はない。ただ、解体費用の回収について、あれこれ議論する間にも危険な空き家は存在している。「行政代執行による解体」と「解体費用の回収」は別々の問題に分け、危険除去を優先した。

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