安藤忠雄氏設計の「シカゴのギャラリー/Wrightwood(ライトウッド)659」が2018年にオープンした。建物の外観は、築90年のレンガ造の外壁を保存したものだが、内部に足を踏み入れると、コンクリートの大きな階段が印象的なアトリウムが広がる。慈善事業家として米国で広く名前を知られる発注者のフレッド・アイキャナー氏に、安藤氏に何を期待したかを聞いた。

ギャラリー「ライトウッド659」は、公平・公正・人道的な社会の実現を支援するご自身の慈善活動の場として理想に近いものですか。

 それは断言できます。シカゴのウェスト・ライトウッド街659番地に完成した「ライトウッド659」は、建物が美しいだけでなく、空間も大変フレキシブルです。建物自体と地域への貢献、そして開催する展覧会によって、今後長く知られるような場になることでしょう。

通りから見た北側の外観。レンガの外壁を残し、4階には外壁から奥まる形でペントハウスを設けた。右隣が発注者であるフレッド・アイキャナー氏の自邸。ともに安藤忠雄氏の設計(写真:Jeff Goldberg/Esto)
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改修の際に、前提となった条件は?

 「ライトウッド659」に改修された建物は、1930年代以来、比較的健全性を保ってきました。しかし、1960年代以降は、この地域の街並みの景観を維持できるかどうかはチャレンジでした。時代遅れの会館や駐車場が5階建てのアパートに建て替えられ、最近も2~3のアパートが取り壊されて、5階建て(25戸)の共同住宅につくり替えられています。

 このブロックには、1890年代の独自のバナキュラー(土地固有)なファサードもあり、そのスケールとストリート感を保持するために、ファサードとセットバックの保存は必須でした。

安藤忠雄氏に設計を依頼した理由は?

 安藤は、生存する最も偉大な芸術家、もしくはその中の1人です。比類なきコンクリート打ち放し作品、繊細な自然光の扱い方、自然との強い関わりに引かれ、20年以上前に自宅の設計を依頼しました。

 今回の美術館の設計に当たっては、アート作品と競うような建築ではなく、見ることと考えることを誘い掛けるような環境を求めていました。

 安藤の建築、特に美術館は、その豊富な光、人間的なスケール、そしてアート鑑賞を促すためのクオリティーを備え、他を圧倒する素晴らしさがある。美術館をつくろうと決めたとき、安藤は唯一の選択肢でした。

エントランスを入ると3層吹き抜けのアトリウムが広がる。コンクリートの大きな階段とレンガの壁の対比が象徴的(写真:Jeff Goldberg/Esto)
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 安藤の作品は、例外的な静粛さと見事な美しさで知られ、 同時に鑑賞者に、何を見ているかを顧みる時間を与えるようなアートスペースのつくり手としても有名です。安藤によるアートスペースでは、アート自体が語り始め、鑑賞者が独自の体験ができる余地があります。

 安藤の設計で完成した「ライトウッド659」は、新しい展覧会を開くに当たって完璧な外殻です。安藤自身、イタリア・ベネチアの「パラッツォ・グラッシ」(2006年)や「プンタ・デラ・ドガーナ」(09年)の改修例のように、外周か内部かの違いはあっても、元の建物を取り払わないことで有名です。安藤は「古い人を尊重すべき」「古い建物を尊重すべきだ」という意見の持ち主です。

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