東京都江戸川区が11年ぶりに改訂した水害ハザードマップ。洪水に加え、高潮のリスクにも言及した。区内に浸水の恐れがある場合は、「ここにいてはダメです」と明記し、議論を呼んでいる(資料:江戸川区の資料を基に日経 xTECHが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 東京都江戸川区は2019年5月20日、11年ぶりに改訂した水害のハザードマップを公開した。洪水や高潮による被害を「最大で10m以上の深い浸水」「1~2週間以上浸水が続く」と明言。表紙の地図には「ここにいてはダメです」と記し、住民に浸水の恐れがない域外への避難を促した。水害の危険性を包み隠さず伝えた江戸川区の決断は、インターネットなどで議論を巻き起こしている。ハザードマップを監修した東京大学大学院情報学環の片田敏孝特任教授は、「議論を巻き起こすことが目的だった」と語る。10年以上前から東京東部低地帯に位置する江東5区(江戸川区、足立区、葛飾区、墨田区、江東区)の広域避難を訴えてきた片田特任教授の意図はどこにあるのか。日経 xTECHがその真意をインタビューした。

東京大学大学院情報学環の片田敏孝特任教授。江戸川区の水害ハザードマップ作成を監修した(写真:日経 xTECH)
[画像のクリックで拡大表示]

江戸川区危機管理室の山口正幸室長は今回の水害ハザードマップについて、「私だって江戸川区で育ち、今も江戸川区で暮らしている。本当はこんなことは言いたくないんですよ」と話していました。住民に「ここにいてはダメです」と訴えたハザードマップは議論を呼んでいます。なぜ、これほど厳しい表現で危機を伝えたのでしょうか。

 実は、「ここにいてはダメです」という言葉は当初、ハザードマップに書いていませんでした。この言葉を加えた理由は、水害リスクを包み隠さず公表しなければ、早期の広域避難が実現できないと考えたからです。災害時に「役所が明確な避難指示を出さないから逃げない」という人は、目前に危機が迫った瞬間に役所のせいにして死ぬことに後悔はないのでしょうか。行政に依存する住民の意識を変えなければなりません。台風が来る数日前には一人ひとりが自主的な避難をしなければ助からない。近年の水害はそれほど広域化、激甚化しているのです。

 江戸川区は、荒川や江戸川など大河川の最下流域に位置し、東京湾に面しています。陸域は低く区の7割は満潮時の水面より低い「海抜ゼロメートル地帯」となる。こうした環境は江戸川区を含む江東5区でも同じで、洪水や高潮による水害でほとんどの地域が水没します。江東5区の人口の9割以上、250万人が浸水被害にあうのです。浸水は長いところでは2週間以上続きます。電気が使えない状況で数十万人が孤立する可能性がある。ですから、水害が発生する数日前から段階的に自主避難を促し、区域に残る人口をできる限り減らす。それが重要なのです。

 「ここにいてはダメです」という言葉が議論を起こしたのだとしたら、ひとまずは成功でしょう。やっと一歩が踏み出せた。多くの住民がリスクを理解して、早期の自主避難を意識することが、マス・エバキュエーション(広域避難)のスタート地点となるのです。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら