デジタル技術を用いて建築や家具をつくるプロセスを一般に開かれたものとし、同時に「建築家」の仕事の在り方を変える──。建築テック系のスタートアップ「VUILD(ヴィルド)」(川崎市)が、 「つくりたいを、解き放て。」というキャッチフレーズを掲げる、ものづくりのプラットフォームを始動させている。

 サービスの名称は「EMARF(エマーフ)」。デジタル木工機械と一般ユーザー向けのデザインツールを組み合わせ、オンラインによるカスタマイズ家具の販売を事業化したものだ。18年11月からのベータ版検証を経て今年4月11日に正式運用を開始。併せて同サービスの活用に向けてパナソニック、カインズ、面白法人カヤック、リビタ、LIFULL(ライフル)、富山県南砺(なんと)市の5企業・1自治体との連携も発表した。

 ユーザーとなる一般層のニーズや、現状の生産体制などを考慮し、「家具づくり」の側面を強調している。しかし、同時に、パーソナルユースに近いデジタルファブリケーション技術を用い、地域と結び付いた生産手段を建築家の側に取り戻そう、という狙いも持つものだ。

 2017年の設立で、1988年生まれの秋吉浩気氏が率いるVUILDは、建築の設計・施工を手掛ける他、米国製のデジタル木工機械「Shopbot(ショップボット)」の国内販売代理店として全国各地の製材所、材木店、工務店に機械を納入しながら、ものづくりのネットワーク構築を進める。大学など教育・研究機関を含め、35カ所に納入実績がある。その活動は、「デジタルファブリケーションによる自律分散型生産ネットワーク」という題目でウッドデザイン賞2018の優秀賞(林野庁長官賞)を受賞している。

「家具づくりをすべての人に解放するサービス」とうたうEMARFを通じて購入できる家具の例。正式運用を開始した今年4月段階では、ユーザーによるカスタマイズが可能な4種のデザインテンプレートを公開している。左から「さんかく椅子」(スツール)、「ぴったりの棚」、「やわらかい机」、「天女の椅子」(写真:VUILD)
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神奈川県川崎市のVUILD本社に置かれているデジタル木工機械「Shopbot」。今回、Shopbotを販売展開する際に生じる課題の解決と、元来のVUILDの構想である「建築の民主化」という観点を重ね合わせ、新たな事業としてEMARFを立ち上げた(写真:日経アーキテクチュア)
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VUILD代表取締役の秋吉浩気氏。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶応義塾大学大学院の田中浩也研究室でデジタルファブリケーションを学ぶ。修了後、2017年にVUILDを設立。現在、正社員およびフルでVUILDの仕事に関わる業務委託の人材が7人。ITエンジニア、プログラマーなど他の活動とまたがっている業務委託の人材が約25人という体制になっている(写真:日経アーキテクチュア)
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 以下に、デジタルファブリケーションのネットワーク構築の中で明確になってきた課題(1)、その解決のために生まれたEMARFがユーザー側にもたらすメリット(2)、ものをつくる建築家やデザイナー側にもたらすメリット(3)、それぞれの側面から見てみたい。

(1)デジタル木工の課題とEMARF開発の意味

 Shopbotは、パソコンで木材の加工を数値制御するCNCルーターで、500万円程度の設備投資によって本格的なデジタル木工を可能とする。ただし、大工としての技能は機械に代替できるとしても、ラフなデザイン案を基に、組み立て可能な部品の3次元データを起こすためには技能習得が必要になる。

デジタル木工機械「Shopbot」(写真:日経アーキテクチュア)
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デジタル木工機械「Shopbot」デモ時の様子(写真:日経アーキテクチュア)
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デジタル木工機械「Shopbot」デモ時の様子(写真:日経アーキテクチュア)

 Shopbotに渡す元データの作成は、3DモデリングツールのRhinoceros(ライノセラス)、そのプラグインである3D形状をアルゴリズム生成するGrasshopper(グラスホッパー)など建築・デザイン界ではおなじみのものを用いればよい。と言っても、全体を部品に分けて接合部を設計し、製品としての強度(構造)計算を行う必要がある。さらに、そこからルーター用の加工データを作成するとなると、やはりハードルは高い。このままでは、「Shopbotを導入しようという拠点が増えても人材の確保が課題になってくる」と秋吉氏は語る。

 現状では、固定の人員を配置できず、機械の稼働率の上がっていない拠点も多い。ワークショップを開き、その場で短期間でデータをつくる取り組みも試みているが、「僕たち(VUILD)が行かなければものをつくれない、というのでは限界がある」(同氏)。

 1つには、生産拠点向けの課題として、高度なスキルを持つ人材を置かなくても機械を運用できる仕組みが要る。もう1つ、ユーザー向けの課題として、より広がりを持たせるためには、デザインに対する知識や経験の無い人でも自分に合ったカスタマイズ家具をオーダーできる仕組みが要る。

 そこで、デザインの段階から機械に渡す加工データをつくるところまでをアプリケーションソフトでカバーし、「誰でもある程度、思い描いたものを木工品として形に出来るシステムづくりを進めている」(秋吉氏)。

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