解体か、保存か――。東日本大震災の津波で多くの職員が犠牲となった岩手県大槌町の旧役場庁舎を巡り、住民団体「おおづちの未来と命を考える会」の高橋英悟代表ら2人が平野公三町長を相手取り、旧庁舎の解体工事などの差し止めを求めた住民訴訟。盛岡地方裁判所は2019年1月17日に訴えを退ける判決を下した。これを受け、町は1月19日に解体工事に本格的に着手した。原告の住民団体側は1月30日、控訴しない方針を明らかにした。

岩手県大槌町の旧役場庁舎。東日本大震災で被災。津波によって、職員28人が犠牲となった。2018年8月28日撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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 原告の住民団体側は、旧庁舎は町の震災対応の問題点についての原因を究明するために必要な震災遺構であると主張。町が十分な検討をせずに解体を決めたのは、公的財産の効率的な運用を定めた地方財政法に違反すると訴えた。

 一方、町長側は、旧庁舎を解体処分とするか否かは、所有者である町の判断によるものと主張。(1)解体を公約に掲げて町長に当選した、(2)約2年半にわたり専門委員会、意見交換会などで意見聴取をした、(3)意見を踏まえて議決に臨み、議論を尽くした、(4)解体工事予算は、他の予算案と区別されており、解体することに義務違反はないとして町議会で可決した――ことを挙げ、違法性はないと反論した。

 盛岡地裁は判決で、「震災遺構の存廃は、防災や減災に対する意義の有無だけではなく、関係者を含む地域住民の意向を十分に尊重して決めるべきだ」と指摘。そのうえで、専門家を交えた委員会や説明会などでの意見聴取に加え、専門的知見からの調査が行われていたことなどを認定。「住民代表である議会の意思と住民の意思が乖離(かいり)しているとは認めがたい」などとし、違法性はないと判断した。

 原告代理人の馬奈木厳太郎弁護士は日経アーキテクチュアの取材に対し、「司法の場で東日本大震災の遺構の解体差し止めを求めた全国初の事例だ。震災遺構について、どこまで議論すべきかといった指針はない。今回の判決は、議論した形だけあればいいと判断したように感じる」と語った。

 住民団体は1月30日に会見を開いた。高橋代表は、「紛争解決のための裁判であるにも関わらず、なんら紛争の解決は導かれていない」と判決に疑問が残ると語った。しかし、「問題の長期化は、今後の復興まちづくりにマイナスにはなれ、プラスにならない」、「住民意識の高まりをいくつもの場面で確認できたことなど、一定程度の成果は得られた」などとして、控訴しない方針を明らかにした。

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