「今回のオイルダンパーの検査データの改ざんは非常に巧妙に行われ、誰にも見抜けず、本当に困ったことだ。 耐震性の確認、ダンパーの入れ替えは設計事務所と建設会社が行うが、費用はおかしなことをした会社が出すから、それでよいという話ではない」、「忙しい建設界のなかで、日本全体で大変な無駄することが問題。このようなことが二度と起きない方策が必要だ」。再び起こった「免震偽装」に対し、日本免震構造協会会長を務める和田章・東京工業大学名誉教授はこう語った。再発を防ぐために何をすべきか、日経アーキテクチュアに寄せた提言を全文掲載する(日経 xTECH/日経アーキテクチュア)。

和田章氏(写真:池谷 和浩)
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第三者検査機関の必要性―免震・制振の信頼回復のために

 2018年10月に公表されたKYB、続く川金コアテックのオイルダンパーの出荷検査のデータの改ざん、振り返れば15年3月に東洋ゴム工業の高減衰積層ゴム免震支承のデータの改ざんが公表されている。世界に先駆けて地震国日本において研究が進み、市民や社会に期待され、実用化の進んできた免震構造と制振構造の健全な広がりに水をさす事件であり誠に残念である。いずれの製品も建物に組み込まれているため、検査や取り換えは容易でなく、市民、不動産業界、建設業界に多大な混乱を招いている。

 地震に負けない建築をつくるためには、免震や制振の製品の性能を担保することが重要であり、そのために確実な実験による性能検査が必要である。製造や検査に関わる技術者を性善説にもとづき暗黙に信頼し、重要な製品の性能確認を製造会社の自社出荷検査に任せてきたことに大きな間違いがある。

 ここでは、免震構造と制振構造の進展と普及、これらの製品検査には実物を用いた実験が必要であることを述べる。そのうえで、自社出荷検査のみの問題点、第三者による抜き取り検査の必要性を説明したうえで、試験設備を備えた第三者検査機関の設置を提案したい。

カヤバシステムマシナリーの試験機
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免震構造と制振構造の進展と普及

 大きな地震は日本のどこを襲うか分からない状況において、大地震後に使えなくなるのではなく、続けて使える建築を望むのは、市民や社会だけでなく、研究者も設計者も同じである。この願いから、免震構造と制振構造の実用化が進み普及してきた。

 免震構造は、建物下部と基礎の間に、建物の重量を支えつつ水平方向に自由に動く免震支承、例えば積層ゴム支承、球面滑り支承などを設置し、これと同時に、鋼材ダンパー、鉛ダンパー、オイルダンバーなどを設置して、揺れを制御する構造である。免震装置の上の建築物の揺れは、一般の基礎固定の建築物に比べゆっくりであり、過大な地震力が作用しないため、建物は損傷しにくく、内部の人々だけでなく、コンピューター、高度な医療機器、美術品などの安全も守られ、建物は地震後に機能を維持して続けて使うことができる。地震後に使えなくなる可能性のある一般的な建築物に比べ、大きな利点である。免震構造は、行政施設、病院、学校、事務所、計算センター、高層住宅、美術館、大型倉庫など、4300棟以上の建物に使われ、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などで、設計通りの優れた性能を次々に発揮している。

 制振構造は、建物各階に各種のダンパーを分散して組み込み、地震時の揺れを抑え、柱や梁(はり)にひび割れなどの損傷が生じにくい構造であり、地震後に建物を続けて使うことができる。超高層事務所ビル、高層住宅、行政施設、学校などに多用され、全国で1400棟を超えている。東日本大震災では西新宿の高さ200mの超高層群も大きく揺れたが、ダンパーを備えたある建物の揺れ幅は周辺建物の揺れの約半分であった。その後、周辺の建物にも各種のダンパーが次々に設置されたことから、制振構造への期待が高いことが分かる。

実物を用いた性能検査

 免震ゴム支承は鋼材とゴムを積層接着して製作するが、この生産には10時間以上の高圧高熱処理を必要とし、不良品ができることもある。この力学的性能は鋼材とゴムそれぞれの力学的性質と計算だけで求めることはできず、力と変形の関係、粘性的な性質、破断の限界などは、実物の積層ゴムを実験しなければ分からない。

 ダンパーには、鋼材ダンパー、鉛ダンパー、粘性ダンパー、オイルダンパーなどがある。オイルダンパーは精巧な機械であり、シリンダーやピストン、バルブの設計形状とオイルの性質から自動的にダンパー全体の正確な性能が求まるわけではない。バルブ単体に高速なオイル流れを与える実験も可能だが、この性質がわかっても、組み立てたオイルダンパー全体の性能は実物をテストしなければ分からない。

公表物件の1つである、大阪府庁本館の地下免震層に設置されたKYB製オイルダンパー(写真:日経アーキテクチュア)
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