水上ホテルの引航試験の様子。乗船者がる場合は速度は3ノット(時速約5.6キロ)となる(出所:オクムラボート販売)

 海に浮く球体のホテル客室をつくるというミッションに、設計や製作の関係者たちは頭を抱えた。エイチ・アイ・エス(HIS)子会社のテーマパーク「ハウステンボス(HTB)」は3月6日、実証実験を進める水上ホテルを報道陣に公開した。今夏の利用開始を目指す。HISの澤田秀雄会長兼社長の要望は、「真球を水上に浮かせてホテルとして使用する。これを引航して近くの小島に移動したい」というもの。設計・製作者には納期厳守を求めた以外、発注内容に関する細かい要求はなかったという。

ハウステンボスに係留される水上ホテル。エンジンなどの動力は搭載していないが小型船舶として登録する予定だ(出所:ハウステンボス)
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 水上ホテルの製作が本格化したのは2017年の春ごろから。その準備は大変だった。製作を請け負ったオクムラボート販売(兵庫県姫路市)の奥村雅晴代表は「『船ならば』ということで始めたものの、日本の基準でどの船舶に該当するのか分からないまま話が進んだ」と話す。設計を担当した姫路藩和船建造技術委員の金田隆氏も、「球体の船なんてありえない。小型船舶として認めてもらえるよう、日本小型船舶検査機構に泣きついた」と明かす。水に浮く球体が「船」と認められなければ、運用のための法的な登録ができないからだ。

和室タイプの室内。畳を敷いた空間がある。写真右が設計者の金田隆氏、中央が製作を請け負ったオクムラボート販売の奥村雅晴代表(出所:オクムラボート販売)
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水上ホテルの浴室。ジェットバスが使用できる。エアコンなどの設備も整っており、一般的なホテルの室内と比べても遜色がない(出所:ハウステンボス)
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 結論から言えば、水上ホテルは小型船舶の仕様を満たす船として設計・製作された。外壁(船殻と上部ドーム)は一般的な小型船舶に使われる繊維強化プラスチック(FRP)を採用している。一方、屋内は紛れもなくホテル。直径6.4m、客室面積約28m2の球体内には、1階にジェットバスやトイレ、エアコンなどが完備されている。屋外にある2階は約5m2の展望デッキだ。水上ホテルは2そうあり、内装は和室タイプと洋室タイプに分かれる。

製作された水上ホテルは2そう。内装を和室と洋室に分けている(出所:ハウステンボス)
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 係留時は電力や水を陸から供給する。船として引航する際は、船内のバッテリーやタンクから調達する仕組みだ。安全や運用の観点から、発電機や引火性の燃料は搭載していない。エネルギー源は限られるが、数時間の使用に限れば十分だという。金田氏は「製作途中の水上ホテルを澤田さんが見学したとき、『もっと大きなテレビにしよう』と急に言い出した。積めるバッテリーには限度があるのでひやひやした」と振り返る。

和室タイプの平面図。生活用水や汚水をためるタンクの重さによってバランスが変わるため、水周りの配置には苦心したという(出所:金田隆)
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和室タイプの断面図。球体の底に描かれているのは、バランスを保つためのバラスト(出所:金田隆)
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 水上ホテルを運用するには、旅館業法に適合する必要がある。HTBは「テーマパーク内にある既存ホテルの部屋数を2つ増やす」という内容で、客室数の変更届を提出する準備を進めている。また、ホテルには本人確認ができる帳場(フロント)の設置が義務付けられる。17年の旅館業法に関する政令改正で、IT機器による顔認証なども帳場機能の代替として認められるようになったが、HTBは「園内にある既存ホテルのフロントでチェックインする仕組みを考えている」と言う。

 ホテルとしての定員は3人だが、物理的には最大9人まで乗船できる。海上から花火を見物するなど、船として活用する場合には、利用者の数を増やすことが可能だ。大型連休にはモニター客を募集し、今夏にも運営開始を予定している。水上ホテルはアトラクションの一部でもある。HTBは夜間に船で沖合いまで引航し、朝には6km離れた無人島に到着するツアーを計画。宿泊料金は1泊約5万円から季節によって10万円ほどをみている。

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