中国におけるICT分野の一大イノベーション拠点として、広東省・深センの存在感が拡大している。ハードからソフトに至るまでが集積するエコシステムと、数カ月単位で様変わりするスピード感はシリコンバレーを超えたと表現する人もいる。2018年4月上旬に深センで開催された大型ICT展示会「CITE(China Information Technology Expo:中国電子技術博覧会)」の模様を中心に、中国におけるイノベーション最前線を紹介しよう。

金も人も流れ込み膨張する深セン

 香港の中心部から電車で約1時間の深セン市は、1980年に中国初の経済特区に指定されて以降めざましい発展を遂げた。漁村時代は数千人だった人口は今や1300万人に達し、内外から人やお金が大量に入ってくる。広東語優位な広東省において、深センの共通語は中国の標準語(普通話)である北京語となっている。人やお金の流れの向きも大きく変わり、かつて目標として追いかけていた香港との立場は経済的に逆転しているといってもよい状況だ。

深センと香港の位置関係(Google Mapを基に筆者が作成)
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 現在の街の雰囲気には開放感を感じる。深センには、1990年代以降にファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)といった中国を代表するまでに成長した通信機器メーカーが誕生、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が初めて中国本土に製造拠点を設けた都市のも深センだ。「山寨機(さんさいき。「山賊ケータイ」の意)」メーカーと呼ばれ無名の存在だったOPPO(広東欧珀移動通信)やVivo(維沃移動通信)も今や世界でスマホのトップシェアを争うレベルに成長。深センに本社を置くドローンメーカー・DJI(大疆科技)は2006年の設立以降短期間で巨大化し、ドローンの世界市場シェアを席巻している。電気自動車分野で名を馳せるBYD(比亜迪)の本社も深センにある。

 製造業だけでなく、中国三大ITジャイアントの一つで、モバイル決済分野などでアリババ(阿里巴巴)と双璧のテンセント(騰訊科技)も深センに本社を置いており、IT系プレイヤーの集積地にもなっている。最近ではここに人工知能(AI)やロボットなどの新しい分野も加わっている。

 深セン最大の電気街・華強北(ファーチャンペイ、Huaqiangbei)は、ICT関係者にとって訪問に値するところだ。秋葉原の30倍といわれる広さの中に、電子部品を扱う大小様々な店舗が多数集まっている。ここでは2時間あれば必要な部品が何でもそろうといわれ、深センでのプロトタイプ制作までのスピード感を支えている。

 最近では、ドローンや小型ロボット、セグウェイ型モビリティツールまで何でも売られているし、さらにはスマートホームのショールームも数多く設けられている。ベンチャー企業も雨後の筍のごとく誕生し、地元政府がイノベーションに対して積極的な優遇措置を提供していること、また深センには証券取引所もあることから、スタートアップに資金を内外から提供するエコシステムも整備されている。

深セン最大の電気街・華強北(筆者撮影)
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 中国では2000年代後半以降、「自主イノベーション(創新)」を旗印に、戦略的新興産業の一つである次世代ICT産業をドライバーとした様々な政策が打ち出されている。深センは、その政策を実行する最大の都市の一つであり、企業の研究開発や高付加価値製品の開発・市場投入を促進して「製造強国」を目指す中国版インダストリー4.0「中国製造2025」、各産業とICTの融合「Internet+」、草の根レベルの起業やイノベーションを奨励・推進する「大衆創業・万衆創新」政策(いずれも2015年発表)のほか、2017年に発表した、2030年までにAIを170兆円規模の戦略産業とすることを目標とした「次世代AI発展計画」など各政策が深センの成長を支える原動力になっている。

 中国各地にはインキュベーター、アクセラレーターやメイカーズスペースである多数の「衆創空間」があり、ベンチャーの起業が奨励されている状況だが、深センにはそれが特に集積している。この状況を背景に、深センは高率の経済成長を続けており、2017年のGDP成長率は8.8%と、隣の香港(同3.8%)を大きく上回っている。また、通年ベースで初めて隣の香港のGDP総額を追い越すなど2017年は象徴的な年となった。

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