「日本にはIT産業が無い。IT利用産業があるだけだ」。もう5年以上も前の話だが、ある経営者の「暴論」を聞いて感銘を受けたことがある。日本にはITベンダーと呼ばれる企業が多数あるにもかかわらず、なぜこの人は「IT産業が無い」と言うのか。その理屈はなかなか刺激的だった。

 具体的にはこうだ。ITの領域で新たなテクノロジーを生み出すことで世界に新たな価値を提供するのがIT産業である。大手をはじめ日本のITベンダーのほとんどは新たなテクノロジーを何も生み出していないのだから、日本にはIT産業と呼び得るものは存在しない――。

 当時の私はこの論点に全く気付いていなかったので、本当に感心した。だが話を聞いていて、ふと次のように思った。ひょっとしたら日本にはIT産業だけでなく、まともなIT利用産業も存在しないのではないか。その疑問から発想して、この「極言暴論」で記事を書いた。冒頭の経営者の論がシャープだったこともあり、その記事は数ある極言暴論の中でも「名作」と言える出来栄え。当時の私はそううぬぼれていた。

 最近、ITベンダーの人と「日本のIT業界はIT産業と言えるのか」について議論したことがきっかけでこの記事を思い出し、改めて読んでみた。すると、うーん、イマイチである。かなり考察が甘い感がある。「IT産業なのか、IT利用産業なのか、それともIT利用産業でもないのか」は本格的なデジタルの時代を迎えた今、非常に重要な論点なので、今回の極言暴論で5年前の前回記事をアップデートしたいと思う。

 前回の記事で、日本のIT業界はIT利用産業ですらないと結論付けたのは、「かつてのコンピューターメーカー」も含めてほとんどのITベンダーが、客の言いなりでシステムを開発する人月商売に落ちぶれてしまっているからだ。SIや受託ソフト開発が日本のITベンダーの主要事業であり、枯れ切った技術を使い、旧態依然たる多重下請け構造の中で人月商売を続けている。

 そして「商品」の多くは、顧客の要求のままに作った、費用対効果のはっきりしない一品ものの間接業務支援システムだ。だから、日本のIT業界はITを利用している業界ではあるのだが、産業としてITを利用して世界に大きな付加価値を提供しているのかと言えば、実はたいしたことはない。だから、人月商売のIT業界はIT産業どころかIT利用産業とも言いがたい、というわけだ。

 それじゃあ、どんな企業がIT利用産業と言えるのか。米国や中国などで様々なデジタルサービスを提供するスタートアップをイメージすると最も分かりやすい。彼らはクラウドなどを活用して起業し、場合によっては既存産業を破壊するような付加価値の高い新しいビジネスを生み出している。人月商売のIT業界には、彼らをITベンダーあるいはIT産業と呼ぶことに違和感を覚える人が多数いるが、IT利用産業と見なせばすっきりと理解できるだろう。

この先は会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら