「ベンダーロックイン」という懐かしい言葉がある。特定のITベンダーの製品やサービスに依存してシステムを構築した結果、他のITベンダーに乗り換えにくくなる状態を指す。つまり特定のITベンダーによって閉じ込められる(ロックインされる)という、ユーザー企業にとって情けない状態である。

 懐かしいと書いたのは、最近、ユーザー企業のIT部長らからベンダーロックインという言葉をめったに聞かなくなったからだ。一昔前なら、ITベンダーによって囲い込まれるのはゆゆしき問題だった。技術面で特定のITベンダーに依存すると最新技術を利用できなくなる可能性があるし、料金面で高止まりする恐れもある。だからベンダーロックインを避けるのは、大企業のIT部門や力のあるIT部門の常識だった。

 ところが最近では、IT部門にとってベンダーロックインはさほど問題ではなくなったようだ。だからベンダーロックインという言葉を聞く機会も少なくなった。懐かしい言葉というよりも、もはや死語と言ったほうがよいかもしれない。ただし、ベンダーロックインがなくなったわけではない。むしろロックインされまくっているのが現実で、その事実を多くのIT部門が気にしなくなっただけだ。

 気にしなくなった理由は幾つかある。まず企業のシステムで利用する製品やサービスは既に特定の外資系ITベンダー製に限られてしまっているからだ。選択肢がほとんどないのに「ベンダーロックインを避けよ」と力んでみたところで仕方がない。強いて挙げれば、せいぜいクラウド事業者によるロックイン、つまりクラウドロックインを多少心配する程度である。

 もう1つ大きな理由は、多くの企業でIT部門の劣化、素人化が進んだからだ。ロックインを避けるための有力手段であるマルチベンダー体制(今となってはこれも懐かしい言葉だが)を自ら仕切れるわけもなく、ITベンダーにシステム構築から保守運用までを丸投げしているのが現状だから、ベンダーロックインについてごちゃごちゃ言っても仕方がない。

 3つめの理由がSIerの存在である。これが話をややこしくする。メインフレーム全盛の頃は、富士通、日立製作所、NECなどの国産コンピューターメーカーの主力ビジネスは独自の製品、つまり自社開発のメインフレームの販売だった。だからユーザー企業は米IBMなどの外資系だけでなく、こうした国産メーカーによるベンダーロックインを警戒した。だから大手ユーザー企業はマルチベンダー体制を取ったわけだ。

 ところが今や国産メーカーは皆、人月商売の親玉であるSIerになってしまった。最初から人月商売のITベンダーも含めIT部門に対して元請けとなるのは、ご用聞きのSIerばかりだ。ご用聞きである以上、SIerによるロックインの心配は無用だ。だがその結果、奇怪な別のロックイン問題が生じている。それが記事のタイトルにある「ユーザーロックイン」だ。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら