これまで日本企業の最大のリスクはITを分からない経営者の存在だった。実際、そのリスクは顕在化し、今や日本の大企業は欧米企業、そして中国など新興国の企業と比べてもビジネス構造の変革で大きく劣後することとなった。そして今、日本企業の新たなリスクが生まれつつある。それは「俺はデジタルを分かっている」と自信を持つ経営者の登場だ。一見、良い傾向のように思えるが、関係者から話を詳しく聞くと、非常にマズイ事態になりつつある。

 本題に入る前に「日本企業の最大のリスクはITを分からない経営者の存在だった」の意味を少し書いておく。当然ながら、経営者がITを分からないというのは、技術が分からないという意味ではなく、「自分たちの市場や事業現場の正確な情報を把握して経営者としての施策を打つ」ことができないという意味だ。この手の経営者の決めぜりふは次の通り。「コンピュータのデータを見ても本当の事は分からないよ。現場を見なきゃ!」。

 もっともらしく聞こえるが、本当に現場を見る人はシステムから得られる情報「も」重視する。「ITを分からない」と公言する経営者の多くは現場すらまともに見ていない。たまに大名行列のようにお供を連れて現場を練り歩くだけで、基本は「よきにはからえ」と現場に丸投げだ。自分の出身の事業部門ならまだしも、他の事業部門の現場を何も知らない。月に1度、それぞれの事業部門長の報告を聞いて、収益面で問題がないかを確認するだけである。

 その結果、日本企業に何が起こったかについては、読者の皆さんもご存知の通りだ。日本企業の現場力がさび付き始めているのに、ITによる経営の見える化、すなわち現場の可視化ができていないから、経営者はビジネス構造の変革の必要性に気づかない。現場から上がってくる帳尻合わせを真に受けているうちに、あれほど強かった主力事業が欧米や新興国の企業との競争に敗れてしまった。家電メーカーのように経営破たんする企業も相次いだ。

 問題はそれだけではない。最近では現場の不正のオンパレードだ。エクセレントカンパニーだったはずの企業までが不正に手を染めていたりするから、もはや驚くほかない。収益にしか関心を持たない経営者の下で現場のブラックボックス化が進み、現場は業績に化粧を施すために現場力を発揮して不正に手を染める。これらもろもろの惨状が、ITを分からない経営者の存在というリスクが顕在化した結果なのだ。

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