この「極言暴論」を書き始めてから既に7年目に突入した。ほぼ毎週書いてきたので記事の本数は300本近くに達する。「我ながらよく書いてきたものだ」と半ばあきれ、半ば感心してしまう。それだけ日本企業のIT利活用や日本のIT業界に問題がてんこ盛りであるということだろう。ある意味、IT部門やITベンダーに感謝せねばならない。

 さて、300本近い記事の中で最も多く取り上げたテーマは何かというと、おそらくIT業界の多重下請け構造の問題であるはずだ。「おそらく」としたのは、厳密に何本あるか数えられないからだ。極言暴論では複合的なテーマを扱っている。例えば「劣化したIT部門とご用聞きに明け暮れるSIerの惨状」といった具合だ。だから個別テーマごとに本数を数えるのは難しい。

 とはいえ感覚的には、やはり多重下請け構造の問題を最も取り上げてきたように思う。何せ人売り、ピンハネ、偽装請負、ブラック企業など何でもござれの世界だ。ITというハイテク産業のふりをした労働集約型産業のよからぬ事が全て詰まっている。5年前に別コラムの「記者の眼」で、多重下請け構造の45個もの問題点をあげつらった大長編を書いて以降、この極言暴論でもIT業界の懲りない面々の「悪行」を書き連ねてきた。

 そんなわけなので、IT業界の多重下請け構造の問題は書き尽くした感があった。だが最近、まだ十分に書き切れていないテーマ、あるいは観点があると気が付いた。それは「IT業界の多重下請け構造の心地よさ」である。

 IT業界の多重下請け構造は一種の「互助会」だ。システムを安く作りたいが中堅中小ITベンダーとは直取引したくない大手ユーザー企業のIT部門、人月工数を膨らませて売り上げを大きくしたいご用聞きのSIer、中間でさや抜きをしたい手配師ベンダー、営業せずに楽してもうけたい人売りベンダー。それぞれの思惑が多重下請け構造を支えてきた。

 だからSIerをはじめとするITベンダーだけでなく、ユーザー企業のIT部門も口先では「多重下請けは問題だ」などと言うが、本当は誰にとっても心地よい。何せ現場の技術者さえこき使えば、それぞれの階層の中で誰もが楽にビジネスができる。だからビジネスを変革しようという経営者がいたとしても、やがてその意欲は霧散する。IT業界の多重下請け構造にはそんな「妖力」がある。

 意外なことに、そんな多重下請け構造の中で酷使されているはずの多くの技術者にとっても、大変心地よい環境なのだ。何せ技術者として努力しない人たちに自己正当化する余地を与える。最新技術を全く勉強しない技術者、手配師業にいそしむ技術者らは皆「だって時間も機会も無いのだから仕方ないだろ」と自分をごまかせる。で、ハイテク産業としてITの世界に背を向けて労働集約の世界に閉じこもる。まさに人材の墓場である。

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