「一緒にするな」と憤慨されるのも道理

 公共系システムの問題点はこの「極言暴論」で何度か指摘してきたので、改めてくどくどとは書かない。今回この記事の文脈で言うべきことは1つだけだ。ビルのように目に見えるものならば絶対に起こり得ないバカげた事態が、なぜ目に見えないソフトウエアを作る場合には頻繁に発生するのか、ということだ。客はもちろん、目に見えないからこそ平気でムチャを言うのだろうが、なぜSIerもホイホイ請けてしまうのか。

 超高層ビルを半年で建てろと言ったり、既に建設が進んでいるビルの屋上に巨大なプールを造れと要求したりするのは、さすがに素人でもムチャであることは分かる。一方、ソフトウエアは見たり触れたりできないので、素人の客は「何とでもなるんじゃないか」と思っている場合が多い。昔と違い、客のIT部門の素人化が著しく進んでいるから、ITベンダー側から「できないものはできない」とはっきりと拒否しなければならない。

 ところが実際には、SIerが客のムチャな要求を請けてしまった結果、ビル倒壊クラスの惨事があちらこちらで発生している。これはとても不思議な話である。「ソフトウエアという目に見えないものを作るのは大変」と分かっているのに、それをさらに大変にする客のムチャな要求を受け入れる。SIerの経営幹部や営業担当者は一体何を考えているのか、と皮肉の一つも言いたくなる。建設業界の関係者が「一緒にするな」と憤慨するのも道理である。

 考えてみれば、IT業界の多重下請け構造は「おっしゃっていただければ何でも作りますよ」というSIerの御用聞き商売に最適化する形で発達してきた。その意味では、建設業界の多重下請け構造とは少し違う。当然お気付きだと思うが、ソフトウエアはビルや橋と異なり、ムチャな要求であっても作れないわけではない。「既に建設が進んでいるビルの屋上に巨大なプールを造る」というムチャも絶対に不可能というわけではないのだ。

 しかも、基幹系システムのような創造性を必要としないソフトウエアの開発は、素人同然の人も含め「技術者」の頭数さえそろえば何とかなる。ビル建築のような資材や建設機械も要らないし、業法の縛りがないから建築士や施行管理技士といった有資格者も不要で、ブラック企業の“混入”にも無頓着でいられる。ムチャな要求であっても「大切なお客様」のために請け負って、後はシステム開発の現場がデスマになろうとも、「絶対に逃げるな」とがんばらせれば何とかなる。

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